加盟国28カ国、総人口5億1260万人(2018年)を抱える欧州連合(EU)の欧州議会選(定数751)が23日、英国とオランダを皮切りに始まった。当方が住むオーストリアでは26日、投開票が行われる。オーストリアではマルタと同様、16歳から選挙権がある。
欧州議会選(任期5年)は通常、加盟国の議会選より投票率が低下する。加盟国の中には過去、投票率10%ということもあったが、アルプスの小国オーストリアでは投票率は一般的に高く、45%を超えると予想される。ちなみに、前回(2014年)の加盟国平均投票率は42.61%だった。
今回は欧州の行方、今秋の欧州委員会指導部の人事など重要な課題を抱える議会選だ。それだけに、ブリュッセル(EU本部)は有権者に投票を呼び掛けるテレビ・スポットを流すなど、欧州議会選へ関心を向けさせてきた。
欧州議会では中道右派の「欧州人民党(EPP)」と中道左派の「社会民主進歩同盟(S&D)」の両会派が議会の過半数を占めてきたが、今回は欧州懐疑派や反移民、反EUを訴えるポピュリズム政党が躍進することが予想される。
ところで、オーストリアの場合(議席数18)、欧州議会選挙直前、クルツ連立政権は、連立パートナーの極右「自由党」のシュトラーヒェ党首がイビザ島事件で引責辞任したことを受け、解体され、9月実施の前倒し選挙までの暫定政権が発足したばかりで、有権者の関心は今月27日の議会でのクルツ首相への不信任案の行方に集中し、欧州議会選への関心が薄れている。メディアでもクルツ暫定政権の行方、9月実施予定の前倒し選挙の行方に多くのページを割く一方、イビザ島事件の黒幕探しに読者の関心を引き付けている(「政治の世界は一寸先は闇だ」2019年5月23日参考)。
そのような中、オーストリアで26日、欧州議会選の投開票が実施される。議会選には国民党、自由党、社会民主党、リベラル党「ネオス」、「緑の党」、そして「緑の党」から派生した「イエッツト」の6政党が候補者を立てている。欧州議会選の結果次第では、27日のクルツ首相への不信任案の行方にも大きな影響が出てくるだけに、各政党は24日(選挙戦最終日)、総動員で有権者に支持を訴えていた。
複数の世論調査によると、クルツ首相が率いる国民党(筆頭候補者カラス議員)が支持率30%前後でトップを維持。それを追って自由党が予想外に支持を伸ばしている。野党第1党社会民主党はイビザ島事件で党首を失った自由党に抜かれたら大変ということで、総力戦を展開。
3大政党以外では、「ネオス」がまだ30歳のクラウディア・ガモン候補者を筆頭に立て、新鮮さを演出している。また、前回の総選挙で大敗した「緑の党」が欧州議会選で復活できるかが注目される。
候補者を擁立した6政党間で政策に大きな差はなく、ブリュッセルの官僚主義や過剰な規制の削減、加盟国の意思決定権の拡大、不法移民への対応といったテーマが訴えられているが、有権者の関心は9月の総選挙に注がれている。イビザ島事件で欧州の極右政党にマイナスの影響を与えるとの観測が流れているが、震源地のオーストリアでは、国民の自由党離れはあまり見られない。
一方、英国が10月末にはEUから離脱(ブレグジット)するが、その影響は欧州全体を覆うだろう。英国は世界第5位の経済大国(米中日独)であり、第4の軍事大国(米露中)だ。英国がEUに占めてきた経済実績は全体の15%、EU人口の13%だ。その大国が抜けた後はEU全体の国際社会に占める存在感、パワー、外交力は弱体せざるを得ないことは明らかだからだ(「英国離脱後のEUは本当に大丈夫か」2018年12月24日参考)。
いずれにしても、ポスト・ブレグジットのEUの行方を占う、という意味からも、欧州議会選の結果はやはり大きなインパクトを与えるだろう。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月26日の記事に一部加筆。