トラブルが起きたら犯人探しより謝り方が大切です

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誰でも失敗の経験はあるはずです。自分の不手際やミス、勘違いなどで、相手を怒らせてしまった経験は、多くの人が持っているでしょう。自分が失敗をしなくても、同僚や部下、上司のミスを自分が負うことになり、謝罪しなければならない場面もよくあります。

ここでまず覚えておかなければならないのは、「真実」と「世間のイメージ」は必ずしも一致しない、ということです。

ミスやトラブルが起きたとき、誰が真犯人なのか、何か真の原因なのかという「真実」は、たいした問題ではありません。それよりも、人々はその後の謝罪に対する姿勢などから抱くイメージのほうで判断します。このことをよく理解せず、失敗への対処方法を間違え、火に油を注いでしまうことは珍しくありません。

部下のミスでトラブルが起きたとき、「これは部下のミスです」と真実を述べても、相手はあなたに対して誠実さを抱かないでしょう。上司としての自分の責任逃れの弁明をしているようにしか聞こえません。誤った謝罪を続けると、いくら謝ったつもりになっても相手の不信感をぬぐうことができず、やればやるほど不利な状況に陥ります。

謝罪のやり方ではっきり明暗が分かれた事例としては、「日大タックル問題」が挙げられます。ここで焦点になったのは、この反則プレイを選手が独断で行ったのか、それとも監督やコーチの指示があったのか、というところでした。この一件では、当事者である選手と、
監督・コーチが別々に記者会見を行いました。

直接的な加害者である20代を過ぎたばかりの選手は、多くの記者の前で自らの顔と実名を明らかにし、ケガを負わせた選手らに謝罪をし、真摯に対応したことで世論を味方につけることに成功しました。もし、彼が「自分は監督の指示に従っただけだ」と自己弁護をしていたら、世間の反応はまったく変わっていたでしょう。

それに対し、監督、コーチは責任を世論を敵に回してしまいます。また、質問をする記者と喧嘩をする司会者も悪い意味で注目を集め、日本大学そのもののブランドイメージを毀損しかねない事態になりました。日本大学は第三者委員会による調査を行う意向を示していましたが、記者会見の失敗により新たな火種を作ってしまったのです。

もちろん、ミスやトラブルが起きた原因を追究し、再発防止策を練ることは必要です。ただ、まずは真実を追究するよりも、適切な謝罪を行い、自分の印象を悪くしないことを重視したほうが良いのです。

尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)を上梓しました。