駆け込み需要にさえ見放された大塚家具、亡国の閑散

秋月 涼佑

消費税率アップの日程がいよいよ近づき、高額商品を中心に駆け込み需要が出てきているようである。

高級家具、晴れ着、ランドセル…注文殺到 増税前の駆け込み消費、始まる(SankeiBiz)

そんな、さもありなんという記事に触れて逆にビックリしてしまったのは、この記事の数日前に大塚家具の店舗に立ち寄り、相変わらずの閑散の様子を心配しながら帰ってきたからだった。

大塚久美子社長(大塚家具HPより)

家具好きの端くれとして、昔から大塚家具のユーザーだ。広大な売り場にある商品を実際に目で見て触れられることはやはりありがたい。小物類も充実していて、大物を買う予定がない日もそれなりに楽しくショッピングができる。実際、盛況な頃の大塚家具は土日ともなれば広い売り場のそこかしこにファミーリーやカップルが溢れ、アテンドするスタッフとの会話も賑やか。「繁盛」という言葉がしっくりときたものだった。

しかし、例の派手な親子喧嘩の末に創業者の娘である大塚久美子社長に経営権が変わって以降の惨憺たる状況はご存知の通り。「人が人を呼ぶ」という顧客心理は当たり前のもので、残念ながらここ数年、大塚家具のお店に足を踏み入れるのはちょっとした肝試しである。

私などは、面の皮が厚いもので普段はじっくり見られない憧れの家具をしげしげと堪能するのにこれ幸いと、近くに用事がある時はしばしば立ち寄るのだが、新しい経営方針だろうか、お客だけでなく店舗スタッフの姿もほとんどみかけない。確かに、私のように放っておいてもらいたい人間にはありがたいことこの上ないのだが、自分がいかにニッチな人間であるかも自覚するところであり、一般の購入検討者には不安な感じがするのではないかと逆に心配だ。

中国資本に救ってもらったが、現状、店頭は何も変わらない。

ここ数年の売り上げ不振と、資金枯渇を中国資本に救ってもらった体だが、期せずして盛時以来売り場を定点観測している私からすると、売り場の状況は何ひとつ変わっていないように見える。要は閑散である(一部店舗ではさすがに売り場面積を減らしたように見受けられるが)。

確かに、ECサイト注力との触れ込みもある。2018年12月期決算におけるEC事業の売上高は、前期比69.1%増の3億960万円だったそうだ。しかし、昨年度ヤフオクで大量に新品在庫商品と思わる高級家具が売りさばかれる様(バルク売りした先の業者からの出品かもしれないが)を見ていた私としては、資金繰り目的、苦し紛れの在庫のタタキ売りとしか感じられなかったのも事実である。

松創やベイカーなど国内外の至高とも言える逸品の数々は目を見張るものがあり、これだけの商品を在庫していたことには「さすが」との驚きを禁じえなかったが、ネットオークションで半額にも満たない金額で落札される様には、とてもそんな売り方をされるような商品ではない分、さらに残念な思いだった。

父親との再会とて、みえみえのパフォーマンスに思えてしまう

世間の耳目を集めた父親との再会劇とて、自分の尻に火が付いたあげくのものでもあり、日本市場で悪者扱いされたくない中国資本サイドの利害も透けて見えてくる。

筆者撮影

そもそも久美子氏が父親の大塚勝久氏に名誉会長就任を依頼した、『「スローファニチャー」の会』なる業界団体のコンセプトもまったく安直としか言いようがないものだ。

「日本と世界のクラフトマンシップを応援する『スローファニチャー』の会」設立 大塚家具、飛騨産業の社長が代表発起人(産経新聞)

勝久氏も辞退する他なく、そもそも相手の立場に配慮した申し出でさえなかったのではないだろうか。

大塚久美子氏を非難せざるを得ない理由

私が、大塚久美子社長に厳しい論調であることには実はいくつかの理由がある。

まずは、日本という本格的な家具、特に西洋家具の文化が育ちにくい国における、力のある家具リテイラー(販売業)という希少な会社を潰しかけていること。日本にはお金がある家族はたくさんいるが、そもそも質素をもって良しとする気風が強い(もちろんそれ自体は美徳であるが)上に、家で人をもてなす習慣が一般的でないことや、欧米に比べて狭い家屋の中で、何世代も使えるような本格的な家具にお金を使う層は非常に限られている。

実際に、東京の青山周辺にはヨーロッパの素晴らしい家具メーカーの商品を紹介する店もたびたび登場するが、たいがい長続きしない。そんな中で、大塚家具は本物と呼べる家具を紹介する「砦」だったのだ。今や百貨店でさえ、家具を店頭で扱わない時代だ。大塚家具経営の(少なくとも現時点での)失敗は、それでなくても日本の家具文化を、また何年後戻りさせることになるのか計り知れない。家具ウオッチャーとしては残念極まりないのだ。

そして何より、苦労知らずの教育エリートの親不孝物語があまりに物悲しい。しかも、この不幸譚は会社を去らざるをえなかった多くの大塚家具の元社員の家族までをも巻き込んでいる分さらにやるせない。

(秋月涼佑 過去記事「望月記者と大塚久美子社長「怖いもの知らず」の醜悪」)

中国企業の出資による一応の資金繰りで乾坤一擲の勝負をかける他ない現時点ですら、起死回生となる動きはまったく見えてこない。少なくとも店頭の状況を見る限りは、再会パフォーマンスや取ってつけたようなEC戦略でなんとかなる状況とはとても思えない。

増税前の駆け込み需要の気配さえ感じられない店舗入口に飾られる『「スローファニチャー」の会』発足記念キャンペーンのポスターが、文字通りあまりにも悠長に感じられるのは私だけだろうか。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
秋月涼佑の「たんさんタワー」
Twitter@ryosukeakizuki