ベネズエラ支援のキューバ、パンなどの食料不足が深刻化

キューバは日本には馴染みの薄い国。2016年9月に安倍首相が南米訪問中にキューバに立ち寄ったことがある。キューバから北朝鮮に核ミサイル実験を止めるように促すことを依頼する為の訪問であった。北朝鮮が友好関係を維持している数少ない国のひとつキューバである。安倍首相訪問のすぐあとに、中国の李克強首相が探りを入れるかのようにキューバを訪問するという経緯があった。

infobae.comより引用:編集部

そのキューバで現在パン粉、料理用オイル、鶏肉、卵といった食料の不足が深刻化している。ベネズエラと同じ過程をたどっている感じだ。その中でもパンが不足しているのは市民に強い打撃を与えているという。配給制で不足しているパンが自由市場で5ペソ(555円)で販売されていたが、現在15ペソ(1665円)に値上がりしたという。昨年末に7万トンの小麦粉が不足していた。卵も不足して、今ではエキゾチックな料理に見られるように変化している。

人口1120万人のキューバで60-70%の食料を輸入に仰いでいる一方で、砂糖の輸出は生産量の減少で2018年はその前年比16%の後退。ニッケルの輸出も減少。観光収入も観光規制がトランプ大統領によって厳しくなり13億ドル(1430億円)の減収になると見込まれている。
(参照:dw.cominfobae.cominfobae.comlavanguardia.com14ymedio.com

同様に新聞にする紙も不足。政府機関紙『Granma』は水曜と金曜は16ページから8ページに減らし、『Juventud Rebelde』と『La Juventud Comunista』は土曜は廃刊。他紙も同様に発行部数とか枚数を減らすことにしているという。しかし、政府は国の経済状態などは詳しく報じないのが常だ。それは社会主義国家の特徴でもある。

dw.comより引用:編集部

なぜこのような事態になっているのか? 90年代にソ連が崩壊してそれに寄生虫のごとく付着していたキューバは一挙に困窮状態に陥った。それと同じ現象が今、ベネズエラに付着しているキューバが前者の危機で同じ道を辿り始めているというわけである。
(参照:dw.com

これまでチャベス前大統領の政権時からキューバは原油を安価に提供してもらい、その代償として医師、教師、スポーツ指導者とった人的派遣によるサービスで返済していた。提供された原油も製油して再販もしていた。しかし、両国の現在の商取引は最盛時に比べおよそ74%も減少をしているという。ベネズエラとの取引はこれまでキューバのGDPにおいてほぼ8%の貢献をしていた。(参照:14ymedio.comelmundo.es

ベネズエラから安価な価格で原油の供給が出来なくなると、原油を他国から輸入する為にキューバは最低でも20億ドル(2200億円)を用意せねばならなくとなる言われている。輸入先として考えられるのはロシア、カタール、アルジェリアといった国であろう。しかし、現状の財政的に困窮しているキューバが20億ドルを準備するのは容易ではない。

米国はキューバが困窮し始めているのを利用してキューバの絞めつけに動いた。理由は、ベネズエラのマドゥロ政権が今も存続できているのはキューバのお陰だからである。キューバの軍部がベネズエラの軍隊と諜報機関の中枢を握ってマドゥロ政権を支えているからである。現在のマドゥロはベネズエラの軍部よりもキューバから派遣されている軍人に信頼を置いていると言われている。およそ2万から2万5000人のキューバ人軍人がベネズエラに駐屯している。

そこで、米国は外国からキューバへの投資の関心を半減させるべく、ひとつの手を打った。それがキューバ革命でカストロ政権に没収された資産を取り戻すべくヘルムス・バートン法の発動である。この発動をポンペオ国務長官が発表したその同じ日にボルトン大統領補佐官は米国からキューバに送金できる金額を一人当たり3か月毎に1000ドル(11万円)と発表したのである。また、キューバへの旅行も家族的な訪問に限るとしたのである。

これまで米国に在住するキューバ人らが本国に送金していた金額は年間で70億ドル(7700億円)に上っていたのが、今後減少する可能性がある。外国に在住しているキューバ人の外国からの送金はこれまでキューバの歳入のほぼ50%を占めていたということから、キューバ政府はここでも痛烈な打撃を被ることになる。そして、既に減少している米国人のキューバへの観光者もさらに減少する可能性が高い。つい最近も米国が科した新たな制裁でクルーズ客船がハバナ港に寄港することを中止した。(参照:diariolasamericas.com

政治と経済の形態を変えなければキューバは今後も後退し続けることは以前より明白にされて来た。その改革を期待されて1年前にキューバの評議会議長に就任したディアス・カネルであるが、市民からの評価が今ひとつ低い。例えば、定年しているマイテは「彼は家でも命令することができないように見える。管理者といった感じで評議会議長には見えない。テレビでもラウル(カストロ)を言及するのが先で、その後にディアス・カネルの名前が出て来る。それはこの1年何もやっていないことを示すものだ。命令できる人物が必要だ」と述べた。

個人経営のタクシー運転手フニオルは「新憲法で首相のポストが設けられるということでディアス・カネルの権力は縮小される。政権をどのように担うのかアイディアをもっていない。なぜ毎日会議そして会議と行う必要があるのだ? それはキューバの現状とキューバ人のことを知らないとでも言っているように見える」と語った。

鉄工所を訪問した時に彼と握手をした熟練工ホルヘは「ディアス・カネルの手は非常になめらかだった。きつい仕事をしたことがないことを示す良い例だ。喋る声も低い。最初に尋ねられたのは給料のことだ。そして労働条件に満足しているか質問を受けた。彼が訪問する前に不満は彼に言わないようにと忠告されていた。おとなしい人のような印象だ。この国はバカの集まりだ。彼にとって彼のポストは重荷になっているように見える」と答えた。

他にも「内気に見える」とか「十分な権力を与えられていない」といった評価がある。

彼を批判する材料は3月31日付の電子紙『Diario Los Americas』でも、彼の自宅で友人3人を招待しての食事で食卓には一般市民では口にできないような豪華な料理が並んでいたことを報じた。(参照:diariolasamericas.com

キューバの問題は国の政治経済の形態を変えることであるというのはラウル・カストロを始め、誰もが知っている。しかし、現在のキューバの社会主義体制にメスを入れて改革を実行しようとする人物が不在なのである。ディアス・カネルはラウル・カストロの子飼いの政治家である。これまでの社会主義体制を敢えて変えようとする勇気は彼にはない。

トランプ大統領はオバマ前大統領の政策を180度転換させてキューバを経済的危機に追い詰めて国内から敢えて改革を起こそうとする動きの誕生を待っているということだ。果たして、それをロシアや中国が容認するか事態は容易ではない。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家