犯罪予防が嫌いな朝日新聞

無用な朝日新聞叩きには賛同できないが、6月8日の朝日新聞デジタル『「犯罪多発地域」レッテルの懸念も 日本もAI捜査着々』は批判するしかない。有料配信記事なのでお金を払わないと全文は読めないが、払う価値はない。

記事は冒頭で京都府警を紹介している。16年度から犯罪が起きそうな日時やエリアを予測するシステムを運用し、「昨年1年間にシステムを活用して重点的にパトロールした地域で、車のタイヤを盗もうとした事件など約40件(余罪を含む)が検挙につながった」。そこで19年度からAIを一部導入し、事件関連データに加え、気象データや道路情報、地域ごとの人口や地形などの公開情報を加えて予測精度を高めるそうだ。ここまでは前向き。

犯罪予測マップのイメージ(平成30年版警察白書より)

そこから突然後ろ向きになる。

AIを使っても使わなくても、特定の地域を重点的にパトロールすれば犯罪は減るだろう。しかし、その地域は「犯罪多発」のレッテルを貼られ、貧困や格差が拡大する恐れがある。捜査する警察の側に「偏見」を生み出す可能性もある。

東京都は子供たちが自ら通学路等を点検して「犯罪が起こりやすい場所」を地図に表す「地域安全マップ」を推進している。活動の根拠は「犯罪機会論」だという。これは、犯罪の実行に都合の良い機会を減らせば、犯罪者は犯罪の実行を躊躇するようになるというものだ。

警察官のパトロールも犯罪機会論で説明できる。犯罪の発生が減る効果が期待できるし、実際に減少すればその地域は犯罪多発地域から外れることになる。どこがレッテル張りなのだろう。わが国では犯罪予測マップは非公開だが、犯罪機会論に基づいてすでに公開している国・地域もあるというのに。

記事を読んでハザードマップのことを思い出した。洪水などの危険を地図にした情報を地方公共団体が公開すると地価の低下を招くと、2000年ごろに反対が起きたことがある。朝日新聞はアエラ2001年6月11日号で、「不動産の相場は交通の便利さや公共施設といった周囲の状況、日当たりのような個別要因などさまざまな要素が複合してつくられるからだ。50年に一度洪水が起きる可能性があっても、それだけでは大きなマイナスにはなりにくい」と不動産鑑定士の意見を紹介し、ハザードマップを公表するように主張している。

犯罪予測マップも同様。その地域の評価は多様な要素で決まるから、警察官のパトロールが多いだけで犯罪多発地域と断じられることはない。

記事には「予測エリアを大きく取るなど、住民の個人情報に結びつかないような配慮が捜査機関には求められる」と守山正拓殖大学教授が指摘したとある。しかし、守山氏は「地域安全マップ」の研究開発に関与した研究者である。通学路の細部まで書き込む「地域安全マップ」を推進した研究者が警察内部で利用する犯罪予測マップのメッシュを粗くするように主張するとは理解できない。