ブルームバーグによると、きょうの参議院予算委員会で、安倍首相は次のように答弁した。
2%の物価安定ということが一応目的だが、本当の目的は例えば雇用に働き掛けをして完全雇用を目指していく、そういう意味においては金融政策も含め、目標については達成している。それ以上の出口戦略うんぬんについては日銀にお任せしたい。
アベノミクスの旗印だったデフレ脱却やインフレ目標は「一応の目的」で、本当の目的は「完全雇用」だったのか。これで日銀はハシゴをはずされ、安倍政権は財政政策に舵を切ったわけだ。それは政治的には正しい。雇用に関心をもつ人は多いが、インフレ率なんてほとんどの人は知らないからだ。
もともと安倍首相は、金融政策に知識も興味もなかった。2006年に福井総裁が量的緩和を終了したのは、第1次安倍内閣のときだ。その後の経済の低迷を日銀のせいにしたのがリフレ派だった。政府債務が積み上がる中で「財政コストゼロで日銀をいじめれば景気がよくなる」というリフレ論は、政治家に人気があった。
2012年に安倍氏が自民党総裁に再出馬したときの売り物が「輪転機ぐるぐる」だった。最初のうちは彼も「金融政策はタダだから、だめで元々だ」という程度の発想だったと思うが、これは黒田総裁のコンセプトとずれがあった。
初期の黒田総裁は、消費税の増税を延期したら金利上昇の「どえらいリスク」があるという財政タカ派で、彼の量的緩和も増税の悪影響を量的緩和でカバーするものだった。これは財務省の方針とも整合的だったが、増税を延期しようとしていた首相とは違っていた。
2013年は安倍首相と日銀の蜜月だったが、インフレ率は2014年初頭をピークに下がり始め、2016年にはマイナスになった。リフレ派のリーダーだった浜田宏一氏も、2016年11月のインタビューで「学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」と正直に間違いを認めた。
量的緩和が空振りに終わってから、首相は日銀と距離を置き始めた。「デフレ脱却」や「物価安定目標」という言葉が彼の話から消えたが、財政赤字は増えたので景気はゆるやかに回復し、雇用は人手不足になるほど回復した。
明らかに流れは変わった。もう量的緩和もインフレ目標も必要ないのだ。財政政策に軸足を移したときに消費税を増税するのは不幸なタイミングだが、その「増税対策」と称して財政政策を拡大する理由になる。
安倍政権は6年かかって、経済学の常識を確認しただけだった。1930年代にケインズが指摘したように「流動性の罠」では金融緩和はきかないが、財政支出はきくのだ。財政赤字は必ずしも悪ではないが、無制限に増やすべきではない。その原点にもどって、財政をどう民主的にコントロールするのか考え直すときだ。