誰のための、何のための遺伝子パネル検査?

昨年の613日に日本に帰国した。あっという間に過ぎた1年間であった。そして、これほどまで忙しくなるとは思っていなかった。昨日から日本がん分子標的治療学会のために大阪に来ている。おとといの朝、家を出て大阪に向かい、13時から会議と私自身の基調講演、引き続いて拡大プログラム委員会に出席した。これで一日が終わる。この間も東京から悩まし気な連絡が途絶えない。とにかく、無茶苦茶忙しい。

昨日は朝7時に大阪上本町のホテルを出て、千里中央に行き、そこから大阪大学に向かった。内閣府のAIホスピタル視察のためだ。朝食は千里中央駅のベーカリーでパンとジュースを買って、バスターミナルのベンチに座って済ませた。いつ誰に見られているかわからないので注意して、と言われることが少なくないが、食べないと体のエネルギーが切れてしまう。

大阪大学の視察後、千里中央駅に戻り、駅ビルの改札口直近のラーメン屋に飛び込み、5分間でラーメンを食べ(というより飲み込み)、上本町に戻り、学会の総会でのあいさつ、その後の司会と繋がる。不健康な生活だと自覚はしているが、時間がないので仕方がない。シカゴの6年間の時の流れが懐かしい。 

日本がん分子標的治療的治療学会では、昨年から理事長を務めている。私自身が分子標的治療薬を開発しつつあることに加え、分子標的薬は遺伝子解析を利用して使い分けしているという観点からもつながりが深い。6月から保険診療として利用できることになった「がん遺伝子パネル検査」は、分子標的治療薬を探すための検査である。本日朝の産経新聞「正論」欄にゲノム医療の重要性とそれに対する課題をまとめた。 

日本のゲノム医療の遅れについてはこれまでに何度も指摘してきたので、ここでは取り上げない。しかし、学会で遺伝子パネル検査に対する現状を多くの方からヒアリングしたが、謎が残る内容だった。56万円の価格に対して大手メディアは「検査費用、輸送費用、専門家会議の費用など」が必要なので高くなっているとコメントしていた。現実は、病院の収入は1万円から数万円とのことだった。間接的な情報ではあるが、多くの方がそのように言っていた。

日本の専門家の価値はあまりにも低い。これでは病院にとって大きな負担になるだけである。働き方改革の観点からも、どこかおかしい。誰のための、何のための検査なのか、本質的な議論が必要だ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。