「解散風」は吹くのか――。いまメディアでは、衆参同日選になるかどうか、という話題で持ち切りだ。当の本人である安倍晋三首相は、本音では、「解散したい」のだ、と僕は思っている。
先月、トランプ大統領が来日、日米首脳会談を行った。当初、アメリカは、貿易交渉の決着をつけるのではないか、と予想されていた。しかし、トランプ大統領は、「参院選が終わるまで待つ」と明言したのだ。
トランプ大統領は、ゴルフに大相撲観戦、炉端焼き、さらに天皇、皇后陛下と晩餐会までした。自衛隊の護衛艦「かが」にも乗船、視察を行っている。「令和最初の国賓」として、最大級の「超おもてなし」だ。そのおかげなのか。
もし、今回、日本にとって、日米貿易交渉の結果が厳しいものになっていたら、どうなるか。まず7月の参議院議員選挙は、安倍政権にとって極めて不利なものになっていただろう。
だがトランプ大統領は、「おそらく8月に、両国にとって素晴らしいことが発表されると思う」と語った。つまり、参院選が終わった8月になってから、貿易交渉の決着をつけるということだ。しかし、貿易交渉の結果が、「両国にとって素晴らしい」わけがない。安倍首相のために妥協し、先延ばししただけなのだ。農産物、自動車……、どの交渉も、厳しい結果になると予想される。
TPP11の合意で日本は、「これ以上は関税を下げない」と言っている。だが、トランプ大統領は、日本に関税を下げるように要求してくるだろう。となれば、国民からの風当たりも強くなると予想される。
であれば当然、安倍首相は、7月のうちに衆参同日選挙をしておきたいはずだ。だが、解散の「大義名分」がない。10月に予定されている、消費税の値上げを三度見送れば、「信を問う」という意味での解散も考えられる。しかし、5月の月例経済報告で、景気は「緩やかに回復」しており、これも先延ばしの理由にはならない。
一方、菅義偉官房長官は、「もし野党から内閣不信任案が出れば、解散の理由になる」と発言した。二階俊博幹事長も、「大義名分など1日あれば作れる」などと言っている。さらに、政府が5月29日、今国会に提出した国家戦略特区法改正案、いわゆる「スーパーシティ」構想について、自民党の森山裕国対委員長は、「(成立に)無理があれば、会期延長などの判断が必要になる」と、会期延長の可能性を示唆した。この一連の発言は、同日選への環境づくりを、進めているようにも思われる。
しかし、衆議院の任期は、まだ2年を残している。安倍政権にとって都合がよいからと、解散してよいものか。ほかの先進国ではありえないことだ。
メディアは、「同日選ありなし」の予想に終始するのではなく、厳しい目できちんと検証すべきだろう。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2019年6月15日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。