IR担当者受難の時代?法務と会計の狭間で悩む実務担当者

山形沖地震で被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。いまのところ津波の被害は出ていないようですが、余震の可能性はありますので、どうかご注意ください(ちょうど1年前の大阪北部地震を思い出しました)。

acworks/写真AC(編集部)

さて、定期購読している旬刊商事法務と週刊経営財務ですが、いつも楽しみにしているのが「時事談論」(経営財務)と「スクランブル」(商事法務)。どちらも時事ネタについて企業会計、企業法務の視点から有益な意見が述べられ、ブログの参考にさせていただいておりますが、両誌の最新号ではいずれも「IRの重要性」が話題となっておりました。

経営財務(時事談論)のほうは「時価評価、将来見積もり、M&Aによる無形資産評価等、会計基準が複雑になりつつある時代、開示された内容だけで会社の実体表現がわかりづらいのであれば、会社の会計処理をわかりやすく説明しなければならず、そのためにもっと(企業側が)会計基準の有用性を理解しなければならない(経営者側の分析内容も開示する等)」とのこと。

いっぽう旬刊商事法務(スクランブル)では「IR担当者はESGやガバナンスに関するリテラシーが乏しい、IRは数字ばかりではなく、会社法を含めた法務やガバナンスへの理解がなければ説明責任を尽くせない」というもの。いずれも経営者の意識を高める必要がある、といった主張では一致しています。

「株主との対話」に光があたり、総会シーズンの新聞ネタとして株主提案権や議決権行使に関する話題が多いのですが、企業法務の実務家や会計の実務家の視点からはIRの重要性が説かれるのですね。「とりあえずルールに従って必要事項を開示しておけばよい」というわけにもいかず、投資家への説明責任を尽くすことが要請されるようになりますと、なるほど、上記のような要望が出てくることも頷けます。

ちなみに私、最近「経営陣に伝えるための『税効果会計と財務諸表の視点』」(荻窪輝明著 税務研究会出版局 2019年3月 2,000円税別)を読みましたが、本書のように(仕訳の解説を省略して、読み手の視点から)「どう説明すれば経営者にわかってもらえるか」といった視点で難しい会計基準を(ご専門の方に)解説していただくと、とてもありがたいと思いました。

ただ、「わかりやすい会計基準、決算数値の説明」がなされたからといって、会社の実態の真実に迫れるかというとちょっと違うような気もしますし、ESGを理解しているからといって、当該「部分最適」の理解が全体最適(中長期の企業価値向上)の理解と矛盾しないかどうか、IR担当者が判断できるかどうかもわからないので、IR担当者に定量・定性情報への理解をどこまで要求すべきか、もうすこし議論が必要かもしれませんね(巷の噂によりますと、最近、旬刊商事法務の発行部数が頭打ち、とのこと。法務担当者だけでなくIR担当者も購読するような論稿を増やすことで購読者を増やすべきかもしれませんね。余計なお世話ですが-笑)。

以前、私は(個人投資家や運用担当者が集まる)東京の某開示研究会に参加しておりまして、「同じ適時開示情報を読んでいるのに、こんなにも『会社を読む力』に差があるのか」と愕然としたことがありました(自分の実力の乏しさに情けなくなりました)。IRに対する経営者の意識を高めることも重要ですが、市場の活性化、健全化に必要な法務や会計のリテラシーを磨くことによってトクをするのは株主の方々ではないでしょうか。

「株主との対話」が進むのであれば、その充実に向けて会社、投資家双方が勉強する必要があると思います。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年6月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。