インド、性的暴行受けた修道女の「反乱」

長谷川 良

インドの主要宗教はヒンズー教徒で全体の80%を占め、その次はイスラム教徒の13%、キリスト教徒は2%前後の少数派宗教に過ぎないが、そのローマ・カトリック教会の修道院の修道女(44)が2014年から16年にかけ司教に13回、性的暴行を受け続けてきた。同修道女はローマ法王フランシスコにも書簡を送り、助けを求めたが、バチカンからは返答がなかった。同僚の5人の修道女が立ち上がり、性的暴行を行った司教を訴えに出たことから、インドでも大きな話題を呼んでいる。

▲未決勾留されたムラッカル司教(2018年9月21日、インド日刊紙「ヒンドゥスタン・タイムズ」から)

▲未決勾留されたムラッカル司教(2018年9月21日、インド日刊紙「ヒンドゥスタン・タイムズ」から)

独週刊誌シュピーゲル最新号(6月15日号)は4頁に渡り、インドの修道女の蜂起を報道している。タイトルは「修道女たちの反乱」(Rebellion der Nonnen)だ。インドのコーチ市から南西部の Kuravilangad のイエズス会修道院で司教の性的暴行を受け続けた修道女は今年1月に駐インドのバチカン大使宛てに手紙を書いたのを皮切りに、5月にはルイス・ラダリア教理省長官、そのコピーをフランシスコ法王、6月にはバチカンのナンバー2のパロチン国務省長官に手紙を送り、司教から脅迫され、性的暴行を受けたと報告したが、返答はなかった。その直後、修道女はインドのケララ州の最高指導者フランコ・ムラッカル司教(55)を告訴した。

ローマ・カトリック教会総本山バチカンで2月、未成年者への性的虐待問題をテーマに世界司教会議議長会議が開催さればかりだ。アラブ首長国連邦(UAE)からローマへの帰国途上の機内記者会見でフランシスコ法王は修道女への性的虐待問題についての質問を受け、「修道女が神父や司教たちの性的奴隷のように扱われてきたことを知っている」と答えている。

このコラム欄でも神父に性的暴行を受けた修道女の告発を報告した。修道女への性的暴行は教会では黙認され、被害者の修道女たちは沈黙するケースが多く、外部の世界から閉ざされた修道院では、枢機卿が司教や神父に修道女を斡旋するようなこともあったという。文字通り、修道女は売春婦のように取り扱われてきたわけだ(「枢機卿の『告白』と元修道女の『証言』」2019年2月9日参考)。

性的暴行を受けてきたインドの修道女は、「自分は教会内で問題を解決したかった」と吐露している。問題が公に報じられ、裁判沙汰になったことで一層苦しみを味わっているという。その苦境を知った同僚の修道女5人が立ち上がり、抗議を展開させてきたわけだ。

性的暴行の容疑を受けたムラッカル司教は、「修道女の訴えは嘘だ。悪意に満ちた虚言だ」と反論してきたが、5人の修道女たちが司教の犯罪を訴えたためにメディアも注目。同司教は昨年9月、未決勾留されたが、10月中旬には保釈金で釈放されている。公判は間もなく開始されるという。

インドでは性的暴行を受けた修道女への批判も強い。「教会を中傷する目的ではないか」、「なぜ今になって司教を訴えたのか」といった中傷、批判が絶えない。インドでは女性の社会的地位は低い。ケララ州のカトリック教会司教会議はムラッカル司教の無罪を信じ、修道女に対しては「教会の名誉を傷つけている」と批判している。

問題は、インドの修道女の場合、教会指導部に報告し、その対応を要請してきたが、その叫びに教会側が全く応じなかったことだ。特に、インドの修道女はフランシスコ法王宛てにも書簡を送ったが、同じように返答はなかった。フランシスコ法王は世界司教会議議長会議でも、教会は今後、聖職者の未成年者への性的虐待を隠蔽してはならず、性的問題を犯した聖職者への処罰を表明したばかりだが、現状はその通りではないことが改めて明らかになった。

シュピーゲル誌は、「フランシスコ法王はいい人かもしれない。法王はいいことを多く言うが、どうして何も実行しないのか」という性的暴行を受けた修道女の姉のコメントを報じていた。

独教会の女性信者たちが教会内の女性の権利擁護を訴えてストを行ったばかりだ。インドの修道女の例でも明らかなように、修道女たちも不法な扱いにもはや沈黙しなくなってきた。バチカンは女性の蜂起に対しこれまでのように静観していることはできないだろう(「独教会の女性信徒が『スト』に突入」2019年5月14日参考)。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年6月19日の記事に一部加筆。