キューバ政府がひた隠しにする墜落事故の原因

昨年5月18日、キューバの首都ハバナのホセ・マルティ空港を離陸した直後に旅客機ボーイング737-200が墜落するという事故があった。111人が死亡、生存者の2人は重体で病院で治療を受けていたが、一人はその後死亡。生存者は若いキューバ人女性マイレン・ディアス・アルマゲルだけであった。彼女は片足を切断し、しかも複数の負傷を負っていることから現在も療養中だという。(参照:diariodecuba.com

事故から1年経過した5月16日にキューバ民間航空協会がまとめた調査報告書をキューバ政府が発表した。

同報告書は、ブラックボックスに記録された内容とこのフライトの航空規格に照らし合わせた調査に基づいたものだとして、事故原因はパイロットの操作と重量のバランスミスに起因するものとみられるという結論に至ったと表明した。更に、報告書の締めくくりとして墜落した現場の住民、調査に関係した種々機関、並びに国家運輸安全協会、米国ボーイング社、メキシコ航空局から得た協力があったことも報告したのである。

事故から1年も経過しての報告内容にしては余りにもお粗末である。キューバという社会主義の国では情報は閉鎖されたものでしかない。この報告書は今回の事故の一番の責任はキューバ政府にあることを隠す為でしかないようだ。何しろ、キューバ国営航空の専門家のひとりが2009年に「如何なることがあってもグローバル・エアーとは契約すべきではない」と忠告している。(参照:diariodecuba.com

この忠告を無視して同国営航空では使用できる機材が不足しているということでグローバル・エアー(Global Air )の機材及びパイロットと客室乗務員も一緒にレンタルしていたのだ。しかも、事故機が生産されたのは1979年ということで40年が経過しており、通常では既に「お払い箱」になっている代物である。

しかも、事故が起きて2か月後の7月にはグローバル・エアーのオーナー自身が「事故はパイロットのミスによるものになるはずだ」と語っていたというのである。それは機材に不備があったということを暗示したものなのか、パイロットが準備不足だったのかは不明である。いずれにせよ、グローバル・エアーのサービスに非があるということである。

グローバルエアーの元従業員が事故後に安全面で同社の機材には複数の不正があることを告発している。

同様に同航空に勤務したことのあるパイロットのひとりと客室乗務員ひとりが「5月18日の事故は全く安全性に欠けていた条件で飛行していた機材で、いずれは事故に合うのは分かっていた」と複数のメディアで明らかにしたのであった。(参照:diariodecuba.com

事故の調査報告があってから40年キューバ航空のパイロットを務めたマルティネス・ロペス はフェイスブックに次ぎのようなコメントを入れた。「大惨事を招いた事故であったにもかかわらず報告書の作成の責任者の署名はなく、しかも事故から1年が経過しているのに、パイロットの準備不足が『恐らく事故の原因』であろうとしているのはふさわしくない結論だ」と述べた。更に、彼は「パイロットのミスにして保険会社が賠償金を払い、政府は責任から逃れようとしているのはグロテスクな報告書だ」と断言した。(参照:diariodecuba.com

また、彼はブラックボックスに記録されている内容が報告書に言及されていないことに不審を感じている。しかも、重量バランスの責任者が誰なのかという明白さに欠け、そのミスがどのような内容なのかという説明がないことも指摘した。

カリビアン航空のパイロットアメリオ・ゴメス は「事故の責任を亡くなったパイロットになすりつけ、彼らは事実を証明できる証拠書類も提示することができない。そのような不公平を利用してまで航空専門家やそれに精通している人達の前に操作された報告書に仕上げたということに腹立たしさを感じる」と指摘した。

グルーバルエアーの元パイロットマルコ・アウレリオも「エンジンの故障や、一度はメキシコから離陸した時に電気系統のシステムがショートしたことがあった。メインテナンスの整備士も一緒に搭乗していて故障の修理で戻らねばならなくなった」という経験談も語った。

(参照;diariodecuba.comcubadebate.cu

遺族への賠償請求は航空事故の賠償を専門にしているフランスを本部に置くBarreau de Bordeauxが担当しているそうだ。(参照:diariodecuba.com

旧ソ連から購入した機材を使用していたキューバ国営航空であるが、国の資金不足も影響して古い機材を使い、故障した場合は使えなくなった機材から部品を取り出してそれを修理に使っていた。しかし、このような応急処置も限界に来ており、安価に提供する航空会社の機材をレンタルで使用しているというのが現状である。今後もこのような事故が起きる可能性はある。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家