党首討論「原点」に戻って見直しを

松井 孝治

党首討論を聴きました。

野党側も、玉木代表の財政検証の経済前提の議論や、立憲民主や共産からは、総合合算制度や社会保険料の累進性を上げてはというような政策提言系の発言もあり、各党なりに短時間でどうアピールするか、工夫はあったと思います。ただ、そうした提言の問題点の掘り下げも含めて、各党の20分、14分、5.5分、5.5分という持ち時間では、討論の不完全燃焼感は明らかです。

衆参インターネット中継より:編集部

昨晩の報道ステーションでは、キャスター氏がこの党首討論を酷評しておられましたが、厳しい評価は、党首討論の現状の枠組みに向けられるべきであり、与野党党首が批判されるのは、やや気の毒にも感じました。

結局、報道的には、上記の年金、あるいは社会保障論議ではなく、維新の共同代表の質問に答えた、首相の解散に関する発言を題材とした下記のリンクの内容になってしまうのが何とも微妙です(ニュースバリューとしてそれが悪いというわけではありませんが…)。

二大政党時代の与野党対決には、45分間の1対1の討論という枠組みが新鮮だったかも知れませんが、野党分立時代、しかも一国会で一回限り、各党長くて20分、短いところは5分という枠の議論では、党首の皆さんもさることながら、聴いている国民にとって不完全燃焼は半端ではありません。

英国のプライムミニスターズクエスチョンは短時間で活発な討議が行われているではないかというご議論もありますが、やはり日本語で、しかも討論文化が根付いていない状況で、この細切れ枠では正直まともな議論は難しいと思います。

討論者のみならず、国民から、党首討論の議論って、いつも言い放し、すれ違いでつまらないと認識されつつあるのが深刻な問題です。

20年前の国会改革の目玉として導入された、日本の国会では唯一ともいえる、この「討論」の経緯を知るものとしては、コメンテーター氏のように、これを酷評して切り捨てるのではなく、何とか活用できないものかと思います。ここは与野党ともに、自分にとって有利とか不利とかではなく、それこそ言論の府としての大問題、議会制度の危機と捉えて欲しいのです。

まずは開催頻度をかつての与野党合意のレベルに高めて(もともとは英国に倣って週に一度という合意でしたが、せめて月に二度は開催して欲しいところです)、野党間の輪番方式を採ってでも、一党当たりの討論時間を増やすことから始めるべきかも知れませんが、より討論の本質に踏み込んだ検討も必要でしょう。

与野党は、かつて合同で視察団まで組んで英国のプライムミニスターズクエスチョンズを見学し、国会の討論はかくあるべしと合意した原点に戻れないものでしょうか?場合によっては、英国議会方式で、党首を含む与野党議員の自由質問制度の復活という選択肢だってなくはありません。

党首討論の導入というと小沢一郎氏のことばかりが言及されがちですが、当時のキーパーソンの一人が、実は大島理森・現衆議院議長です。仄聞するに、大島議長は、国会の現状を憂い、国会改革の必要性を痛感されているとのこと。

天皇陛下の御譲位という歴史的な判断を、立法府・行政府双方を巻き込んで見事に法制化された大島議長の見識と手腕を、ここはひとつ、国会改革、20年前の一丁目一番地だった党首討論の活性化にも活かして頂けないものでしょうか。

国会改革は、いくら若手議員が叫んでも、国対で汗をかき、その実務経験が豊富な議員が動かなければ現実には困難です。その意味で、歴代最長の自民党国対委員長経験者でもあり、与野党に名実とも最高のネットワークのある大島議長以上の適任者はおられません。

衆議院が解散されてしまうと、議員としての活動はともかくも、議長としては退任される可能性が濃厚。その前に議長最後の大仕事を大島議長に仕切っていただくわけにはまいりませんでしょうか?


松井 孝治(まついこうじ)元内閣官房副長官、慶應義塾大学教授
1960年京都生まれ。東大教養学部卒業後、通産省入省。橋本政権下では内閣副参事官として「橋本行革」の起案に携わった。通産省退官後、2001年の参院選で初当選(京都選挙区)。民主党政権では鳩山政権で内閣官房副長官。13年7月の参議院2期目の任期満了を持って政界を引退。現在は慶應義塾大学総合政策学部教授。


編集部より:この記事は、松井孝治氏のFacebook 2019年6月20日の記事を元にアゴラ向けに加筆、寄稿いただきました。掲載を快諾いただいた松井氏に心より感謝いたします。