山本太郎を止められるのは橋下徹しかいない

新田 哲史

アゴラ以外にも、山本太郎氏と、れいわ新選組が躍進する可能性に気づいたネットメディアが続々と本人へのインタビューや、客観的な立場の有識者らによる質の高い論考を載せ始めている。特に秀逸というか、筆者が改めて末恐ろしさを覚えたのがAERAのインタビュー記事だ。

山本太郎議員、誘われたら安倍内閣の財務相に? 自民と組む条件は… (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

山本氏後援会Facebookより

第3極へのブランドチェンジが明確に

AERA側から、もしも安倍首相に手を組もうと言われた場合の対応について尋ねられた山本氏は、こう答えたという。

自民党が本気で減税すると言うならば、そちらに乗ります。何がなんでも野党陣営ということではない。我々の政策が実現できるなら、手をつなげるところとはつなぎますよ。ステップ・バイ・ステップ、一歩ずつ前進するための一段階というとらえ方です。

消費税廃止や原発即時廃止などの極論を政策に掲げる割に、政策実現のためであれば権力側に回ることも辞さないリアリストな一面をのぞかせている。この記事が載る前日に書いた拙稿で、筆者は山本氏が「橋下時代の維新や旧みんなの党の支持層も含めて、山本陣営が刈り取りにいける余地がある」と指摘したが、この踏み込みは予想以上だった。いまの山本氏を泡沫左派勢力と侮るのは全くの間違いで、左派というよりも既存の野党とも異なる「第3極」マーケットに明らかにシフトしている。

AERA側の取材者は、名うてのノンフィクションライター、中原一歩氏と、同誌の上栗崇副編集長。「頭の体操」のつもりで問いかけたのかもしれないが、見事な質問だ。後世、政局の今後を占う上で決して小さくない「転換」点を引き出したと言われるかもしれない。

山本氏のこのコメントは炎上したそうで、本人もブログで釈明をしたが、本気で政策を実現するのであれば、炎上するのも釈明するのも筆者から見れば意味不明だ。

なぜ(大阪以外の)維新の脅威なのか

山本陣営の独自調査として朝日新聞も報じているが、立憲支持層だけでなく自民支持層からも同じ15ポイントを引き出しているという。政治学者の中島岳志氏は「論座」への寄稿でこう指摘している。

自民党支持層の中には、景気対策を重視し、「反緊縮」を支持するビジネス界の人たちがいます。しかし、それ以上に山本さんの主張は、苦境にあえぐ農家や中小企業、商店主など旧来の自民党支持者たちに支持されています。

あくまでもこれが実体を伴った傾向であればの話だが、自民支持層の足元を崩されると、何が起きてきたか。それが2010年代に維新が躍進した大阪の選挙であり、2016年都知事選、17年都議選の小池ブームが起きた東京の選挙だ。前回の拙稿も述べたように、これまで第3極の勢力が足場にしてきた無党派層にも及ぼす影響は計り知れない。

すでに東京選挙区では、維新公認の音喜多駿氏が山本氏が潜在的な脅威であることは察知したようで、意識した発信をしている。力の差はあれど競合サイドの現状認識としては「正しい」。

ただ、筆者のこうした見方に対し、維新の支持層からツイッターで「山本太郎と維新の支持層は違う!」とキレ気味に絡まれたりした。これに対する筆者の反論はシンプルなもので、「大阪以外」という条件付きだ。

維新の支持層を分析している政治学者、善教将大氏の研究(概略は松本創氏の記事をご参照)で明らかになっているように、大阪での支持を得たのは「大阪の利益の代表者だという政党ラベル獲得」(松本氏記事)がコアの部分だ。ところが首都圏を始め、大阪以外の地域では、そのラベルはない。

東京は地域ナショナリズム的な土壌が生まれづらい首都独特の地勢ではある。大阪のように、地域の利益代表というよりは、郵政選挙の小泉ブーム、民主党政権誕生、みんなの党の躍進、小池旋風などなど、その時その時の「新しい政治」を打ち出す勢力としてのブランドを獲得したからと言える。

小池ブームの都知事選(Facebookより)

となれば、維新は現在、大阪以外は他の地域政党と連携をはかっており、北海道では鈴木宗男氏まで担ぎ出すことが決まったが、北海道で強い鈴木氏はともかく、支持政党の移ろいが非常に激しい首都圏で、既存の野党も体たらくが続く中、山本氏の勢力が間隙を縫う展開になりはしないだろうか。

選挙に弱い議員たちが押しかける可能性

山本氏が全国比例に回って、国政政党の要件となる得票率2%以上の支持を獲得する可能性は小さくない。もし選挙区、比例を合わせて自身を含めた複数の当選者を出し、野党再編を仕掛けるような事態になれば、空白地帯の首都圏で選挙に弱い旧民主系の議員や元職あたりが、なびいたりはしまいか。みんなの党も国会議員5人からのスタートで最盛期は国会議員36人、地方議員約300人、党員約1万人まで勢力を伸ばしたことを考えると、ありえない話ではない。

阿部知子氏(Wikipedia)

実際、党首の政策が「破天荒」であろうと、強きに流れる政治家は多い。例えば、民進党が解体して、小池百合子氏に合流する話が出た時、左派の阿部知子氏がまるで合流に前向きかのような発言もしていた。

民進・阿部氏「小池氏と原発ゼロ、ぜひ一緒にやりたい」(朝日新聞デジタル 2017年9月29日)

小池氏の排除発言で、さすがにキレた阿部氏は立憲民主党の方に行ってしまったが、事と次第によっては憲法や安全保障の考え方で真逆の小池氏の元に合流していたのではないかと思わせるような口ぶりだった。これが共通点の多い山本氏であれば、ハードルは高くないのではないか。

山本氏が勢力を伸ばす危険な芽を摘むには、自民でも立憲でもないポジションで、現実的に政権を狙う政策スタンスの勢力が受け皿として存在感を見せられるかどうかだ。国民民主はあまりにも力不足だし、むしろ山本氏になびく人も出てきそうで頼りない。小沢一郎氏との合流で色あせて感じる有権者も多かろう。

橋下氏が復帰するしかないのでは

橋下氏(ツイッターより)

であれば、やはり唯一、第3極として生き残っている維新がどうするかは一つのポイントだと考える。別に維新の支持者ではないし、丸山問題の事後対応には疑問だらけではあるが、いまある選択肢はこれしかないのだから仕方がない。

とはいえ、いまの維新は大阪以外では求心力に欠ける。であれば「最終兵器」である橋下徹氏の復帰を早めるしかないのではないか。現実問題としてこの参院選に出ることはあるまいし、本人も安倍首相在任中の政界復帰は視野に入れてないように想像するが、山本氏が参院選で野党再編の橋頭堡を築くような結果になれば、早めに仕掛けないと大阪以外のマーケットを奪われる可能性も感じる。

関西の自民党議員に聞いた話では、橋下氏が衆院選で東京1区から立候補するという説もあるようだが、それが世迷言であるとしても、それくらい大胆なことをしなければ対抗できない事態にならないことを祈りたいものだが…。

正直、本稿をいまの段階で書くことは時期尚早である。当然書くべきかは大いに迷ったが、最近の橋下氏がネットで右派の人たちとよくわからないネタでバトルしているのを見るにつけ、そんなことをしている場合なのだろうかと疑問に思い、敢えて筆をとった次第だ。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」