永遠の実務者になれ:日本企業の低迷要因はピラミッド型組織?

岡本 裕明

私が企業にお仕えした20年間、思い出すことの一つにずっと実務担当者だったことでしょうか?入社約10年後のカナダ赴任中に課長職となりましたが、部下はほとんどなし。もう一つは仕事の範疇が広いうえに会社として未知の進出国で仕事のやり方を開拓しながらどんどんこなさねばならないことでずっと実務者にならざるを得ませんでした。

写真AC:編集部

その頃、プロジェクト管理者の一人として、この事業にはこれ以上人件費はかけられないし国内に適材はいない、よってローカルの専門家に外注する、外注する以上仕事の内容はある程度把握していないと専門家に主導権を牛耳られるという危機感でした。

結果としてマルチタスクプレーヤーになったわけですが、これが今でも続くとは思ってもみませんでした。性分なのかもしれません。

一例が経理でした。カナダに赴任するまでは本格的な経理のケの字も知りません。赴任直前に本社海外主計から「月次試算表を毎月提出してもらうからまずはその勉強から」と肩を叩かれました。「月次試算表?」全く聞いたことのない言葉です。当時はソフトもなく、半ば手計算の時代です。その後、年次決算を経験します。おまけに海外支店経理と関連会社の独立した経理があります。関連会社はいわゆる決算書まで作成です。初めは苦労しましたが、そこからがぜんパワーが湧きます。これを完全マスターするために関連会社(私は7社担当)の求められない四半期決算書を作り、人の4倍x7社の経験を積み上げます。

あれから28年。実は今でも決算書は自分で作っています。8社ありますが、会計ソフトもあるし、数字があらかた頭に入っているので一社3時間から大きいところでも2日で完成します。なぜ自分で作るのか、といえば税務がどんどん変わっていくなかでダイレクトに影響する経理を把握することで税務対策を作りながら考えるためです。

経理の話はほんの一例で末端の実務までこなしている業務は多くあります。レンタカーへのお客様のアテンドはごく普通にしていますが、なぜかといえば顧客の声をダイレクトに聞きたいのです。マリーナのボートオーナーとも年中やり取りしますが、一つにはこちらでは「判断できる責任者に直接話をしたい」という思想があるからでしょう。それゆえに自分が実務の武装をしていないと急な電話がかかってきてもチンプンカンプンということになります。これでは仕事になりません。

丸岡ジョー/写真AC(編集部)

日本の大企業の業務体系はピラミッド型です。現場や最前線を担当する一番下のグループから何層もあってトップが経営陣になります。その間、層が5つも6つもあるわけで現場で何が起きているか、わかるわけがありません。副社長や部長の報告を「おう、そうか」と100%の信頼で聞いた結果、思わぬ失敗したという話は後を絶ちません。

警察ものの小説を読むと現場勤務に戻りたいというシーンがよく出てきます。現場に行くと問題そのものが見えてくるからなのでしょう。ところがサラリーマンの方で「現場に戻りたい」という人は案外少ない気がします。ピラミッドの上に上がること、すなわち、眺めの良い心地よい事務所で汗もかかず、油で汚れることもない世界で部下をたくさん抱えると「出世しましたね」とあがめたりするのでしょう。たまにいらっしゃいますよね、「私の部下は〇〇人もいるからねぇ」とおっしゃる方。

日本の生産効率性が低いと指摘される一つの理由はピラミッドの上に行くほど高給をとる仕組みにあるかもしれません。保身的な本社が現場からの意見を潰すなどよく聞く話で、社長がもっと早く知っていれば、ということもあったと思います。私の理想はピラミッドをもっと潰し、フラットにすること、つまり途中の階層をより少なくし、上から下までの風通しを良くすると同時に個々の責任感を引き上げることではないかと思います。

海外において残念ながら日本企業の名前はすっかり聞こえなくなりました。存在感も非常に薄くなっています。判断すべき中堅層が本来の業務とは違うコンプライアンスや不要不急のあいさつ回りなどに時間を費やされているのかもしれません。

私は確かに日本の皆さんに比べてかなりドライでカットアンドペーストだと思います。しかし、それぐらいのスピード感と即断即決でないと事業なんて進められないのも事実です。毎日戦争です。こうやってブログを書いている間に様々なメールやテキストが来て素早い対応を求められます。

日本の陽はまた昇るのかという議論がかつてありました。最近ではそのたとえすら聞かないのですが、本当に昇るんでしょうかねぇ?私はやや首を傾げています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年6月23日の記事より転載させていただきました。