ビジネスシーンでは、「仕事が速い」という表現を使うことがある。仕事のクオリティも重要だが、それ以上に評価されるポイントとなるのがスピード。
「仕事が速い」=「仕事の効率がよい」という評価につながるため、「仕事がデキる人」と思われやすい。
仕事を速く終わらせるためには、個としての仕事の効率を追求する必要があるが限界が生じやすい。その場合、部下に仕事を任せることが得策である。しかし、有能な部下の場合、仕事がはやく自分の仕事がなくなってしまう危険性がある。
一方、仕事ができない部下がついた場合、自分の立場を驚かす存在にはならないが、ミスが気が気ではない。結局、自分でやった方が速いなどの理由で安心して任せられない。ひとりで抱え込んでしまい疲弊することになる。
仕事がうまく任せられなければ、現状の仕事に忙殺されて、いつまでもワンランク上の仕事ができない。ワンランク上の仕事=ジョブサイズが上がることはないから、評価もかわらない。これこそ悪循環のスパイラルである。
そうならないためにも、部下に仕事を任せることを覚えなければいけないが、仕事を知らない部下に教えるには時間と手間がかかる。教えるコツや、日常の部下との人間関係性も影響するから大変である。ある程度の中長期視点が必要になる。
私が大手シンクタンクに勤務しているときの話になる。その月は、売上が悪く、他部署の役員から仕事を振られて部下を数名アサインした。ある企業の実態調査だった。
さっそく作業に当たらせた。ほどなくして、部下から報告があった。「あんな仕事できません」。胸騒ぎがした。工程を確認するといろいろなことがわかった。「A社の実態調査」ではあるが、対象がいつのまにか変更されていた。
対象予定のA社(上場企業)から、子会社S社(非上場企業)にかわり、売上推移、組織構成、人員構成(氏名)まで含めたクローズド情報の入手が対象になっていた。上場企業であれば、有証をベースに分析をすることが可能である。
しかし、これが非上場の場合、オープン情報がなければ作業はできない。産業スパイみたいなことはできないので最終的には実査不可能として処理した。このようなトラップ案件には気をつけなければいけない。仕事を振られる側の目利きも必要になる。
目利きとは、シンクタンクであれば、課題を解決のシミュレーションができるかだと思う。いまの「A社の実態調査」に掛かりきりになっていたら、私は間違いなくハメられていた。土地勘があったので瞬時に回避できた。しかし、これは経験から学ぶ以外にない。
さて、今月、14冊目となる『3行で人を動かす文章術』を上梓した。レポーティングや正しい文章を書きたい人には役立つ内容ではないかと思う。
尾藤克之(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)