「黒幕」を作る議論文化
日本政治には時折「黒幕」と呼ばれる人物が出てくる。日本政治史で最も知られた「黒幕」は田中角栄だろう。田中はロッキード事件以降、自民党を離党こそしたが派閥を介して自民党内に絶大な影響力を行使し内閣総理大臣を自由に選んだ。
最近の「黒幕」と言えばやはり小沢一郎だろう。民主党政権を参照すれば小沢氏は政府の一員にはならず、あくまで与党幹部の立場で政府を支配下に置いた。鳩山由紀夫内閣は完全に小沢氏の傀儡だった。小沢氏にとって唯一の誤算は鳩山氏の調整力が想像以上に欠如していたことだろうか。彼は総理大臣、いや、国会議員、もっと言えば年齢相応の対人折衝能力すら持ち合わせていなかった。
もちろん田中角栄や小沢一郎は常にマスコミから注目された。日本国民でこの2人の存在を知らない者はいない。「注目される黒幕」とは奇妙な表現であるが、やはりこの2人は「黒幕」と呼ぶのが適当である。
日本国民は田中角栄や小沢一郎の存在こそ知っていたが、現在進行形で彼らが具体的にどんな意思決定を下していたのかは知らなかった。何故、我々日本人は意思決定過程が不透明な権力の存在を認めているのだろうか。それはひとえに日本では公の場で本音の語ることが忌避されているからである。
やや単純化して言えば日本では公の場での議論の前に「打合せ」と称した非公式の事前会議が開催され、この「打合せ」の場では本音を交えた議論が行われる。
そして「打合せ」で意思決定が下されれば、それで事実上、議論は終了であり公の場での議論は「打合せ」で決定したことを再確認する儀式に過ぎない。
このように公の場での議論を忌避するから「黒幕」が誕生するのである。控えめに言ってどこの国にも大なり小なり「黒幕」は存在するだろうが事実上の「国家の長」たる内閣総理大臣を選出する「黒幕」はやはり異例である。
左派・宗教政党の「黒幕」とは?
「黒幕」で話題になるのはやはり「保守」「右派」の政治家であるが、彼らがそもそも「黒幕」の地位に就けた理由は豊富な資金力の有無である。
小泉政権誕生前までの自民党、要するに旧田中派の流れ組む派閥が党運営を取り仕切っていた時は資金さえあれば「黒幕」になれたと言っても過言ではないだろう。
自民党は「保守政党」であるが日本の保守の本質が強力な主義主張を持たない「融通無碍」であることを考えれば、それは当然であるし、おそらく今でもその可能性はあるはずだ。
「黒幕」と言えば「保守」であり「右派」であり「カネ」という印象が強いが、もちろん左派やそれ以外の勢力にも「黒幕」はいる。
例えば「日本共産党に対して最も影響力のある人物は誰か」と問うて「志位和夫である」と返答されても釈然としない者の方が多いはずである。
日本共産党に対して最も影響力のある人物は言うまでもなく不破哲三氏である。
そして日本共産党よりわかりやすいのが公明党である。
公明党に対して最も影響力がある人物として山口那津男氏を挙げる者は圧倒的少数派だろう。公明党と言えば創価学会の事実上の政治部門であるから公明党に最も影響力がある人物はやはり池田大作氏である。
この日本共産党や公明党の例を見てもわかるように左派・宗教政党の場合は「保守」よりも「党外の人間」が「黒幕」になる可能性が高く、しかもその「黒幕」は国民の制御が及ばない民間人の可能性もある。
何故、同じ議論文化の住人なのに民間人が黒幕になってしまうのだろうか。
それは左派・宗教政党には目標とすべき社会が示された「教典」があるからである。左派・宗教政党の序列は資金力や当選回数ではなく教典の習熟度で決まる。
日本共産党は不破氏が夢想する「共産主義社会」を目指しているのは間違いない。
公明党は「人間革命」で示された社会を目指している。立憲民主党は言うまでもなく「立憲主義を守る」社会である。
ただし、公明党については政権与党の一員になって長いから相当程度、現実化している。
だから現在は左派の方が「黒幕」として国民の制御が及ばない民間人の国政介入を招く危険性が高い。
れいわ新選組は政界に何を呼び込むか?
参議院議員選挙の投票日も決定し各党の評価が色々出ている。どうも山本太郎氏が率いる「れいわ新選組」に勢いがあるようである。山本氏の過去の発言を見る限り、れいわ新選組を「保守」とか「右派」と呼ぶ者はいないだろう。れいわ新選組は間違いなく左派である。
そして左派である以上、国民の制御が全く及ばない「黒幕」の存在を推測せざるを得ない。山本氏はかつて極左暴力集団と交流関係にあった。
山本太郎は中核派の支援候補(アゴラ池田信夫氏:2013年7月18日)
その関係が解消されたということも特に聞かない。極左暴力集団に「教典」があるのは当然であり、ないことはあり得ない。
仮にその関係が多少なりとも続いていて、れいわ新選組が躍進した場合、極左暴力集団はれいわ新選組を介して国会審議に不当な圧力加える可能性も否定できまい。
おそらく国会運営が取引材料となり、例えば極左暴力集団関係施設に強制捜査が入れば、れいわ新選組は唐突に「審議拒否」し国会を止めるかもしれない。これがどれほど恐ろしいことか容易に理解できるのでないか。
また山本氏は過去に原発事故被災地域へ侮辱的発言をした。今は侮辱的発言をあまりしていないが、山本氏の前職は俳優であり、それなりに成功した部類に入ることを忘れてはならない。山本氏にとって「演じる」ことは容易く国会議員でその能力は最も高い人物と見ても良いだろう。
れいわ新選組の背後に何がいるのか。このことに我々は注意を向けなくてはならない。れいわ新選組の躍進は国政中枢に反民主主義勢力の介入を許す恐れがあることは繰り返し強調されても良い。
日本の民主主義を守るためにもれいわ新選組に向ける注意の程度は多少、神経質なものでも構わないし、また、そうあるべきである。
高山 貴男(たかやま たかお)地方公務員