米朝会談、それぞれの思惑

それにしても電撃的な会談でした。しかも軍事境界線を踏み越えた点において周到な事前計画というよりトランプ大統領主導の勢いで実現したと断言してもよいでしょう。

当事国の3か国の首脳のそれぞれの思惑と私なりの感想を述べたいと思います。

(朝鮮中央通信より:編集部)

(朝鮮中央通信より:編集部)

まず、韓国、文大統領ですが、八方ふさがりの中、打開策が欲しかった点においてトランプ大統領の訪韓だけでもうれしいのに金正恩氏との会合までセットアップできて万感の思いだったのではないでしょうか?文大統領は「いい顔」型の性格で言わなけきゃ良いことまでしゃべってしまい、自分をドツボに落とし込むタイプに見えます。つまり、今の文大統領を取り巻く状況は自業自得だったのですが、トランプ大統領に救われたわけです。(多分、ご本人はそう取らず、俺の力がモノをいったぐらいに思っているでしょう。)

次に金正恩委員長。こちらもG20で首脳が日本に集まっているのに自分は蚊帳の外という疎外感と習近平国家主席に会って託したトランプ大統領へのメッセージがどう理解されるのか、気になっていました。金氏はトランプ大統領に直接の親書も送っていたわけでベトナムでの会談の失敗を取り戻す方策を考えていたところでした。理由は経済制裁が蝕む国家存亡の危機でありますが、金委員長のアメリカへの想いとトランプ大統領を振り向かせたい個人的気持ちがもっと強かったように見えます。

ではトランプ大統領。この電撃会談を実行した本人ですが、いくつか、要因があると思います。一つは習近平氏との取引。二つ目には文大統領への貸し、三つ目にはタイミングの問題です。このタイミングは誰も指摘していませんが、外交の世界は7-8月は夏休みで通常、大きな動きは展開できません。トランプ大統領もG20をこなした直後でもあり、しばしアジア歴訪はなく、これからイラン問題が出てくるとなればこの機会を逃したら当分時間が取れないことを計算したのでしょう。

ただ、それ以上にトランプ大統領も金委員長のことを個人的に「興味深い」と思っている節があります。それはたびたびのツィッター発言に見て取れます。ただし、子ども扱いしているのも事実です。「自分の力で金正恩の変えて見せる」という野心を持っていることがうかがえます。

さて、この電撃会談が成功に結び付くのか、ですが、仮に大方の予想通り大統領選対策だとすればまだ来年秋まで1年以上あるため、確実な進化をそれまでに見せなくてはいけません。成功させるかどうかはある意味、トランプ大統領の胸三寸であります。ならば、先々、何らかの形で融和と経済制裁緩和が進む理由付けをする可能性があります。その時、日本などが「約束が違うじゃないか」と言わせないディールを展開するとみています。いわゆる表に出ない密約であります。

今回の米朝電撃首脳会談について私はパフォーマンス型だったと思います。ただ、それでも世界はポジティブに理解するでしょうし、何事も一歩、前に出ないと動かないという視点からすればトランプ氏が金氏にボールを投げたという点で次に北朝鮮がどういう態度に出るのか、見ものであります。

個人的には北朝鮮の唯我独尊的な考え方は金委員長のみならず、国家全体にしみ込んだ悪い癖とも言える状態であり、これを改善するには国家の破壊的転換が必要だとみています。例えば民主化を取り入れ、金氏は政治的実権を放棄するぐらい踏み込めないとこの国は変わらないでしょう。

基本的に国家がある日突然大転換するとようなことは8月15日を境にした日本が特例であって普通はなせる業ではありません。両国間の戦争状態の終結までは行けても朝鮮半島の統一は至難の業だと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月1日の記事より転載させていただきました。