昨日、釜石の復興フォーラムが終わりました。小泉進次郎議員、元釜石市副市長の嶋田賢和さん、UBSの堀久美子さんとともにパネルディスカッションを実施しました。具体的な事例と、抽象的な理念をともに伝えようと努力しましたが、力不足でした。こちらで、何をお伝えしたかったのかをまとめます。
1.「関係人口」
釜石では「オープンシティ」というキーワードを総合戦略に掲げており、釜石内外の多様なつながりを地域活性化の梃子にしようと考えています。最近は「関係人口」(※1)という言葉が使われるようになっています。
実際、こうした関係人口は釜石の復興に大きく寄与しました。今回のフォーラムで全国の自治体、大学、企業といった組織に感謝状が渡されていましたが、日本全国から支援者が集まり、また祭などを通じて関係は維持され、復興をこえた持続的な釜石の地域づくりを支えています。パネルトークでは、UBS堀さんから、毎年のべ100名のUBS社員が、コミュニティ・産業・教育といった多彩な分野で釜石市に貢献している様子を紹介されました。
今後、日本各地で関係人口施策が進みますが、住民・行政・地域事業者が一体となった取組が求めらます(釜援隊のようなコーディネーターの役割も大きいです)。ブームで終わらないように、本質的な事例を一つ一つ増やす必要があります。
2.「人生100年時代」
パネルディスカッションでは次のような資料を出しました。
2020年の日本全国の高齢化率は29%ですが、釜石市は39%に達します。ただし、団塊ジュニアが高齢者入りする2040年以降には、日本全体も40%近くになります。日本社会だけでなく世界も、この高齢社会をいかに乗り越えていくかが問われるわけです。その意味では、現在釜石で起きていることは、今後の日本や世界にとっても大きな意味があります。
小泉議員は、そもそも「高齢者」「老後」の定義を見直すことを提案しました。日本老年医学会も、最近の高齢者が10歳程度身体的に若返っていることから、「高齢者」の定義を従来の65歳からではなく、75歳からにすることを提言しています。このように定義を見直すと、生産年齢人口は減らないことを小泉議員は指摘しました。
人生100年時代となり、65歳以降の働き方・生き方をすべての日本人は考えざるをえなくなり、地域はその現実にすでに直面しています。裏を返せば、地域から、時代に求められるライフスタイルのモデルが生まれることにもなるのだと思います。
3.多様性と主体性
多様性が、住民一人ひとりの主体性を育み、そうした主体性が多様性を支える。ちょっと抽象的ですが、こうしたことも伝えたかったテーマです。ここで、UBSが釜石市市と締結したオープンシティにむけた協働宣言を御覧ください(一部抜粋)。
「オープン・シティ」とはすべての市民が自分らしく幸せに生きることを追求し、釜石市内外の多様な人々のつながりが育まれ、異なる考えや意見に寛容で、かつ変化や困難を受容する再起力(レジリエンス)の高い、開かれた地域社会の在り様を指します。
この実現に向けては、市民一人ひとりの主体性が促進され、自己決定が尊重されると共に、性別や年齢などにかかわらず多様な人が活躍できる環境づくりが肝要です。こうした取組により、釜石市は多くの人々から選ばれ、新たな価値や取組、事業が創出されることが期待されます。
『UBSグループとの「オープンシティ」実現のための多様性ある持続可能なまちづくりの推進に向けた協働宣言』
よく「復興には定義がない」と言われます。私は、その地域に住んでいて、またこれから住むだろう人々が安心して普通に暮らせるようになることと考えます。
そのためには老若男女、昔からの住民も新しい移住者も、異なる意見そのままで尊重されることが必要です。そうした多様性によって一人ひとりの主体性が生まれますし、一人ひとりの行動によって、多様な人や考えを受け入れる素地はさらに高まるわけです。
なんとはなしに多様性(ダイバーシティ)という言葉を使う方が少なくないと思います。改めて、多様性によって個々人の自発性を生み、そしてまた新たな多様性を築いていくという、好循環を回すためにこそ多様性の価値があることを、強調しておきたいと思います。
東北からその先の社会へ
あの東日本大震災から8年が経ちました。今回のフォーラムを機会に、市内外の実に多様な方々が釜石の復興に関わってきたことを改めて実感しました。同時に、こうした多様性と主体性が復興を支えていく本質ですし、これからの日本社会にますます必要になってくることでしょう。この10年の復興の総括においても大切な要素ですし、これからの地域活性化や災害からの復興でも、この釜石の取組は参考になると確信しています。
編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2019年7月6日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。