「政策起業家」との出会い:書評『シンクタンクとは何か』

駒崎 弘樹

ずっとモヤってたことがあって。

僕は社会課題を解決するような事業を作ってきたのですが、同時にそれを制度化して誰でもできるようにしてきたり(例:小規模認可保育所)、現場でおかしいと気づいたルールを変えてもらったり(例:保育士試験の2回化・児童扶養手当の倍増)、新しい法律を作ってもらったり(養子縁組あっせん法・休眠預金活用推進法)してきました。

で、こういう制度やルールを変えたり作ったり、っていう民間からの活動をロビイングとか、市民主体でやっているから「草の根ロビイング」とかって言ってたんですね。

じゃあ「こんにちは、ロビイストの駒崎です」って自己紹介できるか、というと、なんかできない。だってロビイストって、自分や自分の業界の利益のために政治家にプレッシャーかけてるニュアンスがあって、ちょっと使いにくかったんですね。

ひとり親の児童扶養手当を2倍にしても、僕は1円も得をしていないわけで。公益のためにやっている、と自負しているので、なんか違うな、と。

こういう、民間から公益のために政治や政策に働きかけるって、良い表現無いかなぁ、と思っていました。

アメリカで活躍する政策起業家

そんな折に、日本を代表する知性である、評論家の船橋洋一先生から対談のお誘いがありました。

船橋先生の新著、「シンクタンクとは何か 政策起業力の時代」を出され、その中で僕を紹介してくれていたのもあって。

で、僕は対談前には必ず相手の本を読むようにしていて、読んでみたら、非常に面白かったんですね。

曰く、

・アメリカではシンクタンクが調査や政策提言を積極的に行い、政策実現をしている

・こうしたシンクタンク職員が政権交代後は官僚となり、官僚はシンクタンク職員に転職していくリボルビングドア(回転ドア)がある

・シンクタンクを立ち上げたり、民間で政策推進するフォーラムを主催する「政策起業家」がたくさんいて、活躍している

・翻って日本では、シンクタンクが省庁の下請けかシステム開発会社になっており、ダイナミックな政策提案と政策実現の責を担えていない

・むしろ駒崎や藤沢烈さんのような社会起業家が政策起業家としての動きをしているのではないか

と。

政策起業家というターム

そうか、自分は政策起業家だったのか。

っていうか確かに、「ロビイスト」とかよりよっぽど良いぞ。

一つの制度を提言していったり、おかしな規制の撤廃を主張していく時って、批判もあってリスクもある。

起業家って言う言葉は、そう言うリスクを取るニュアンスも入れ込める。

さらには、民間から打ち込む政策やアイデアって、既存の制度をアップデートするイノベーティブなものが多いんですね。

そう言う「イノベーション感」みたいなものも政策起業家という言葉の中に盛り込めるなぁ、と。

意外に良いじゃん、と思ったわけです。

「社会起業家」という言葉によって生み出されたもの

そういえば思い出したのが、社会起業家という言葉です。

僕がフローレンスの前身となる任意団体を立ち上げたのは2003年。その当時は社会起業家という言葉がありませんでした。

だから当時23才の僕は周りの人から、

「NPOっていうの?そんな感じの人」

「なんかボランティアっぽいことをしているフリーターの人」

という「職業として何なのかよく分からないけど、でも良いことをしているっぽい人」的に見られていました。

こういう「既存の用語で定義できない状況」というのは、なかなか居心地が悪く、合コンでも職業を説明するのが面倒臭いので、「ボーキサイトを輸入してアルミニウムにして輸出してる」とお茶を濁していました。

しかし、2007年くらいから様相が一変。Social Entrepreneur の直訳である「社会起業家」という言葉が輸入され、「日本だと誰?あ、あいつかも」 みたいな感じで注目が集まり、実はすごい人だ!みたいにやってることは何も変わってないのに社会的評価が集まるようになりました。

「なんかしらないけど、NPOの人」から、「社会課題を解決する新しいタイプの起業家」と認知が変わり、いろんな人が手助けしてくれ、いろんなリソースが集まるようになりました。

さらには「僕も/私も社会起業家になりたい」と言ってくれる後輩世代も増え、民間で課題解決に取り組む人材も増えていったのでした。

「認知の転換」のすごさを、僕は20代の若かりし時に体験したのでした。

日本の政策起業家たち

そんなわけで、この「政策起業家」というタームを広げていけば、「今まで名付けられていなかったことで社会から見えていなかった行為や、それを行う人」が可視化され、実践者が増えるのではなかろうか、と思ったのです。

そういえば僕の周りでも、例えばワークライフバランス社の小室淑恵さんは、企業にコンサルして職場を変えながら、政府の働き方改革推進政策を後押しし、インターバル規制の導入等、政策実現されています。

また、みらい子育てネットワークの天野タエさんは、当事者の立場から待機児童問題についてのイシューレイジングを巧みに行い、政府の待機児童解消政策を後押ししています。現在は男性育休義務化の中心人物です。

さらには元フローレンスの廣田達宣は、ポリテックのスタートアップを経営しながら、官僚の働き方に関するアンケートを取って、彼らの悲惨な労働環境を見える化し、官僚の働き方改革の機運を高めています。

民間には、こうした政策起業家たちがいて、日本をアップデートさせる政策を提案し、心ある政治家の方々に動いてもらい、さらに現場でしっかりと落とし込めるよう、実装支援を行なっている状況があります。

政策起業家を増やしていくこと

こうした人々が増えていくことで、現場の課題が迅速に政治の場に上がり、また新たなアイデアが政策立案の場に吹き込まれていき、制度イノベーションが加速していくでしょう。

27歳で国の審議会メンバーになって10年以上、僕は政策起業家としてやってきたので、できれば同志たちを増やしていくアクションを、今後取っていけたら良いな、と思います。

本を書くとか、オンラインサロンで技術を伝承していくとか、色々やり方はあろうかと思いますが、具体的にどうするかは決めていません。

ただ、いずれにせよ、「駒崎さんは特殊だから」で終わらずに、僕みたいに民間から制度づくりに関われる人たちを何らかの方法で増やしていくことが、次の10年にしていくべきことなのではないか、と思っているので、何か仕掛けていきたいと思います。

興味がある人がいたら、共にムーブメントをつくっていきましょう。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年7月5日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。