朝日vs 読売 ファクトに近いのは?「韓国半導体」報道で比較

田村 和広

宇佐美典也氏の特別寄稿「韓国への半導体材料輸出規制はどんな内容か?」(アゴラ7月3日)を拝読した。他の方の解説も読んだが、宇佐美氏の説明が一番解り易く優れた解説だ。私のような素人にも解るように偏り無く解説されていた。アゴラ研究所フェローでもある宇佐美氏の解説なので、これをニュートラルな視座(=座標の原点)と設定し、朝日新聞と読売新聞の報道の差異を検証した。

編集部撮影

座標原点

関連知識に乏しい筆者のような一般人が事態を正確に把握するのには、今しばらく時間が掛かる可能性が高いものの、要するに今回の対韓措置の要点は次の2点と考える。

要点1:今まで韓国も優遇していたが、優遇の前提条件が崩れたので優遇(ホワイト国)が妥当か見直すというアナウンス。仮に優遇条件に該当しないと判定した場合は、公正妥当に一般条件(非ホワイト国)を適用する。

要点2:第一義的には第三国への技術流出を防止するために、安全保障上の観点から一部の品目について輸出を各地方局審査の包括許可から経産省本省審査の個別許可に変更する。これは韓国への制裁を目的としていない。しかし「副産物」として韓国に対しても有効な制裁効果を持つ。

なぜならば

貿易管理の枠組みにおいて本省自ら個別契約の審査をするのは「原則NG」とするものが中心(宇佐美氏解説より抜粋)

だからだ。

これを本件措置のファクトに一番近い視座、つまり座標の原点に設定する。

見出しの比較

ホワイト国と非ホワイト国の報道に関して、7月2日朝刊一面トップの見出しには、下記の通りあまり差が見られない。

(朝日)半導体材料 対韓輸出を規制(7月2日朝刊1面見出し)

(読売)輸出優遇 韓国除外へ(同上)

報道視点の差が顕著になるのが、リードに続く本文につけられた見出しである。

(朝日)韓国側WTO提訴に言及(7月2日朝刊1面)

(読売)首相「信頼低下が理由」(同上)

本文の見出しで、朝日は韓国側の主張を記述し、読売は日本側の説明を記述している。ここで早くも、朝日は韓国側、読売は日本側のポジショニングが鮮明になる。

本文の比較

1面本文において、韓国側の言動に関して朝日が12行、読売が22行を使って報道している。この点では一見読売の方が韓国寄りにも見えるが、問題は日本側の言動の報じ方である。

朝日は

政府は、元徴用工問題への対抗措置ではないと否定する。

とこのような一文から始まる14行で日本側の言動を報じているが、主語は「政府」または「西村康稔官房副長官」であり、取材源は記者会見という公の説明とみられる。

一方読売は

安倍首相は1日の読売新聞のインタビューで(略)「国と国との信頼関係の上に行ってきた措置を見直したということだ」と述べた

に始まる18行で、日本側の言動を報じている。

伝える内容が同じだとしても、話者が官房副長官と首相ではニュースバリューの桁が違う。また、記者会見という「オープン」情報と、インタビューという「直接」情報の重みの違いも大きい。

朝日は、普段の「反安倍政権活動」が行き過ぎて、政権からの情報収集能力に読売との大きな差がついていることを露呈している。

なお、7月2日時点では、制裁内容自体の報道の仕方には大きさ差異はなかった。

結論:朝日新聞社説は隣国の主張そのものだ

7月1日の政府発表の翌々日となる3日、両紙のスタンスの違いは一層鮮明になった。

読売の報道は総合面(2面)と国際面(8面)で日本側の反応と韓国側の反応をそれぞれ報道している。バランスに偏りは感じない。

一方朝日は、天声人語(1面)で政府の対応を「忠犬」に喩えて揶揄し、総合面(4面)で「WTO協定違反の恐れ」と報じ、社説で「対韓輸出規制『報復』を即時撤回せよ」と政府に命令した。

朝日新聞は、ここに至って明確に韓国側に立って本件を報道した。

朝日は、次の一文から始まる社説の内容も偏りが激しい。

政治的な目的に貿易を使う。近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである。

朝日は政治と貿易を分けて考えているようだが、貿易上の経済制裁とは、極めて政治的な行動でもある。そのことは、約80年前米国による資産凍結や石油等禁輸などを受け、已むなく開戦に至った日本であれば常識だろう。朝日新聞ならば、安全保障と貿易活動と国際政治が切り分けられるのだろうか。

韓国側に立った主張を逐一挙げると冗長になるので控えるが、朝日新聞は日本を責める側に立ち、現実と乖離した論説を掲げる愚行を即時撤回すべきだろう。

田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。