先日、日本が韓国に対する半導体材料輸出規制を行う方針を発表し、両国で大騒ぎしているようです。しかし、輸出規制をしようがしまいがこれからメモリバブルの崩壊やスマートフォン需要の減退で韓国はじめとする半導体企業全体の業績が悪化する可能性が高く、むしろ必要以上に騒ぐとこれからの半導体業績悪化の原因をなんでもかんでも日本のせいにされる危険性もあります。
半導体は生産に莫大な資金が必要で固定費が多くなるにもかかわらず、売上は市況に大きく左右されるリスクの高い産業です。こうした産業に求められるのはとにかく相手より早く投資をして安価な製品を作る量産体制をいちはやく構築することなのですが、皆が我先にと投資を行うと全体の需給が悪化して誰も稼げなくなります。
そして泥沼の価格競争が起きて利益率の低い資本力のない企業から脱落し、ある程度プレイヤーが減ると売り手優位の市場に変化して価格が上がり始めて生き残った企業だけが残存者利益を手にするというサイクルを繰り返してきました。
半導体は技術の優劣を競っていると思いがちですが、生産に必要な技術はある程度外部調達で確保できるようになっており、むしろ半導体生産に求められることは技術の特許切れで安く作れるようになるタイミング、新しい製品が世に出て需要が急増するタイミングを見計らって莫大な投資を行う意思決定の速さです。日本の半導体が負け続けているのも、技術が劣っているのではなく日本のサラリーマン経営者にありがちな意思決定の遅さが原因なのです。
そしてここ数年の半導体はDRAM価格急騰によるメモリバブルが半導体企業の業績を支えてきました。DRAMはかつてリーマンショックによる需要急減で価格が急落して企業業績が悪化し、資本力のない日本のエルピーダやドイツのキマンダなどが撤退を余儀なくされました。
そして韓国のサムソン電子、SKハイニクス、アメリカのマイクロンの三社が残存者利益を享受し、その後のスマートフォン、データセンター需要の急増でDRAM価格が急騰するメモリバブルが2017年から2018年にかけて起きました。このメモリバブルでサムソンの半導体事業、SKハイニクス、マイクロンの営業利益率は一時期50%を超え、売上の半分が利益という状態でした。
ただ、このメモリバブルは昨年で終わり、現在は半導体企業の業績は悪化し始めています。さらに中国がメモリ関連の莫大な投資をこれから行う予定で、メモリ業界はかつての泥沼の価格競争に逆戻りしそうな状況です。これからは日本が輸出規制などしなくても半導体企業の業績が悪化しそうで、むしろ必要以上に騒ぐとこれからの半導体企業の業績悪化をなんでもかんでも日本のせいにされる危険性があります。
また、仮に韓国の半導体企業の業績が悪化したら日本だけ無傷ということはありえません。半導体は市況に大きく左右される業界で、個別の企業努力だけで業績が決まるわけではありません。東芝が危機的状況になっても半導体事業だけは利益が出ていましたが、これはメモリバブルの恩恵を受けた一時的なもので、現在は市況が悪化して東芝メモリの利益はほとんどなくなっています。
そしてルネサスは大型買収をしたものの、いまのところシナジー効果は出ておらず負債だけが増えています。日本の半導体企業はもともと利益率が低く、市況が悪化して真っ先にダメージを受けるのはむしろ日本企業のほうでしょう。
現状の半導体業界は業績に陰りが見えるものの、株価だけはアメリカの利下げ期待で上昇しています。目先はまだ政策期待での株価上昇が続きそうで、すぐに半導体企業の業績が悪化するというわけではないようですが、政策期待での株価上昇が一段落したら業績悪化が本格化する可能性があります。
その時に半導体企業の業績悪化をなんでもかんでも日本の輸出規制のせいにされる危険性がありますし、市況が悪化して最も打撃を受けるのはもとから利益率の低い日本企業の可能性が高いです。
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水口 進一 個人投資家
京都大学経済学研究科卒。経営指標や資本効率に基づいた経済・経営記事を投稿しています。