「米国がサッカー後進国」という通説は、過去の産物と化して久しい。少なくとも、女子サッカー界では、そうですよね。国際サッカー連盟(FIFA)ランキングの1位は米国で、今年開催された女子ワールドカップ(W杯)でも、米国の女子代表チームが優勝をさらっていきました。1991年の第1回を始め、過去7大会中、1999年と2015年と合わせ4度目の快挙となります。しかも、過去全ての大会でベスト3にランクインしているほどの強豪っぷりなんですよね。
米国の女子代表チームはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いですが、W杯開催中は場外でも熾烈な戦いを強いられていました。女子代表選手28名は、男性代表チームと収入格差是正と地位向上を求め、3月に米国サッカー連盟(USFF)を提訴していたのです。6月21日には、両者が調停受け入れで合意しW杯明けに本格的な協議を開始すると報じられただけに、戦績が問われること必至でした。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば、これまで収入格差の主因にチケットを中心とした売上高の差が挙げられていました。しかし、女子の米国代表チームが2015年に3回目となる黄金の優勝杯を持ち帰ってから、収入格差を裏付ける根拠に乏しくなっています。2016〜18年の女子代表チームの売上高が5,075万ドルに対し、男子代表チームは4,985万ドルで、しかも女子W杯後の2016年に至っては、女子の売上高が男子を187万ドル上回りました。
そもそも、過去3度のW杯制覇という栄誉にも関わらず、女子の米国代表選手の収入は男子と比較して桁違いに安かった。例えば、代表チームは公式トーナメント戦以外の20試合に出場する契約が盛り込まれ、男子の場合、勝利すれば1試合で1人当たりのボーナスが1万3,166ドル、全勝すれば1人当たり26万3,320ドル支払われる半面、女子は1試合で1人当たり4,950ドル、全勝して漸く9万9,000ドルという始末です。代表選手に選出されて受け取る金一封も、女子が2013〜16年に1人当たり1万5,000ドルで据え置きだったにも関わらず、男子は2014年に5万5,000ドル、2018年に6万8,750ドルへ引き上げられていました。
米国サッカー連盟は男女間の収入格差の背景として売上高を挙げていましたが、その管理は杜撰なものでした。チケット売上高など以外の収入、つまりスポンサー費や広告費用などは全て一括管理し、男女の区別がなかったというではありませんか。
米国の女子代表チーム選手協会(WNTPA)は、収入格差の是正案としてレベニュー・シェアの採用を求めています。希望通りの回答を得られるかは、W杯での戦績次第であり、彼女達にとって格差是正と地位向上を目指したこの仁義なき戦いの重圧は、相当なものでしょう。また、結果は世界の女子代表チームへの布石となるだけに、絶対負けられない勝負であったに違いありません。とてつもない重圧を跳ねのけてチャンピオンに輝いた米国の女子代表チームに、筆者はあらためてエールを送りたい気持ちいっぱいです。
収入格差は、米国のサッカー代表だけにとどまりません。FIFAがW杯で女子代表24チームに支払う賞金総額は3,000万ドルと、2015年の1,500万ドルから引き上げられたとはいえ、男子の4億ドルを大幅に下回ります。その収入格差は何と3.7億ドルですから、驚愕に値しますね。
世界経済フォーラムによる調査によれば、賃金での男女平等ランキングで米国は51位でした(ちなみに、日本は110位、中国は103位)。米国勢調査局のデータでも男女の賃金格差は明白で、フルタイム労働者の場合、女性の賃金は男性の80.5%に相当する程度でした。これでも、1980年以降で最高を更新しているのですけどね。
ここで注目されるのが、「社会的責任投資(SRI)」と「環境・社会・企業統治(ESG)」要素を含んだ投資です。米国では、運用資産全体の4分の1に相当する約12兆ドルがSRIに適合するとの試算があるのですよ。
こうした投資を通じた賃金格差解消の取り組みが女性へキラーパスを放つのか、目が離せません。
(カバー写真:New York City Department of Transportation/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年7月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。