2年ぶりに北京に行ってきた。日中医療協力のシンポジウムでの特別講演のためだ。日本での仕事に追われているので、金曜日の夕方の便で行き、土曜日の夕方便で戻ってきた。
搭乗時刻の20分前に北京空港のラウンジに行ったところ、到着便が遅れているので出発が遅れると言われた。搭乗時刻は改めて案内するという。ドリンクを一杯だけ飲むつもりだったが、仕方がないので、パソコンを立ち上げて仕事を始めた途端、「….便の搭乗が開始されたので、すぐにゲートに向かって」という案内があった。「What is going on?」 いくら中国といえども、これはないだろう。私がラウンジに到着して10分しかたっていない。
ラウンジからゲートに向かうが、ゲートは空港の端の方で速足でも10分近くかかり、息切れがした。すでに搭乗は開始されていたが、バス移動だ。定刻にドアが閉まってホッとしたが、それから離陸するまでほぼ1時間かかった。北京空港ではいつものことだが、この間はトイレにも行けないので困った。シートベルトサインが消えると同時にトイレに飛び込んだ。
約3時間後羽田空港に着いたが、また、バス移動だ。バスは飛行機が横切る時は待機なので時間がかかり、タクシー乗り場も並んでいたので、自宅にたどり着いたのは、午後11時を回っていた。北京滞在は21時間弱という強行軍。金曜日も土曜日も、夕食は機内食だった。健康に悪いのは言うまでもない。さすがに今朝は肩も背中もパンパンにこり固まっていた。
今回、短い滞在ではあったが、強く感じたことがある。日本では、中国人の日本への医療ツーリズムに期待している声が多いが、中国では日本の検診システムの輸出を期待する方が強いように思う。がんと診断された人の5年生存率は、日本の65%弱に対して、中国は40%強であり、歴然たる差がある。日本人のがん検診率は欧米に比べて低いが、中国ではさらに低いようだ。日本に来ることができる人は限られているので、日本の病院・企業の貢献を期待したい。
医療分野での貢献は、国と国の連携を強める観点で非常に重要だ。多くの分野で中国は日本に追いつき、日本を凌駕しつつあるが、医療の分野に関してはまだリードしている。がんに関しては数字の上からもかなりリードしているが、免疫療法の分野ではうかうかしている状況ではない。
特に、DNAシークエンスやペプチド合成(ネオアンチゲン合成)では、日本は大きく後塵を拝している。人工知能もそうだ。ネオアンチゲン療法に必要なシステムの根幹の部分は中国の方がはるか先を行っている。中国の企業から私あてに、「ペプチド合成受託案内」が最低でも週に一度は届いている。何とかしたいと焦ってはいるが、悲しいかな、国を挙げて取り組んでいる中国の方が優勢に思えてならない。日本でも光明を追求したいものだが、体が疲れているためか、気持ちまで弱ってきているような気がする。
(ソウル大学で見つけた書)
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年7月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。