欧州委員会は2010年にEuropean Innovation Partnership(EIP)を開始した。研究開発が関連産業を急速に革新し、社会を変革する(イノベーション)ように刺激する新しい仕組みである。EIPは四つの目的を掲げている。
- 欧州の研究開発力を強化する。
- 実証実験への投資を調整する。
- 規制や基準を迅速に変更する。
- 公共調達を通じて需要を喚起する。
EIPの適用分野は、Active and Healthy Ageing(AHA、積極的で健康的な高齢化)、農業の持続可能性と生産性、スマートシティとコミュニティ、水資源、原材料。
高齢化が進む欧州社会で、市民が健康で積極的で独立した生活を送れるように、社会システムとヘルスケアシステムの持続可能性と効率を向上させ、革新的な製品とサービスでの市場の競争力を向上させるのがAHAである。AHAは高齢化の課題に対応するビジネスチャンスを世界市場レベルで生み出すと期待されている。
EIPがガイドラインとなって、欧州委員会および欧州各国はAHAに多額の研究開発資金を投下している。先の記事で紹介したActive and Assisted Living Joint Programme(AAL)の場合には、2014年から2020年までの総額は700百万ユーロ(900億円程度)である。
AHAで取り上げる課題はほかにもある。まず治療計画に関する活動がある。慢性疾患を抱える患者個々に治療計画を作成し、セルフケアを含めて、より適切な治療を充実させる。最終的には、患者の健康と生活の質を改善し、病気の悪化を減らし、不必要な入院を回避する。
転倒防止に焦点を当てた活動もある。広く知られているように高齢者が転倒すると、杖を突いていた人は車いすが必要になり、車いすの人は寝たきりになるというように状態が悪化する。この活動は高齢者の状態を早期に診断して転倒予防に向けたプログラムを提供するとともに、転倒の早期検出システムも開発する。
生涯を通じての健康増進を目的とする活動もある。虚弱化の要因を理解し、虚弱化が健康に及ぼす悪影響を明らかにすることで、虚弱化を予防しようというものである。
高齢化先進国であるわが国にも同様の研究開発プログラムが存在する。AHAとの相互比較を進めるとともに連携していくことは、世界全体での高齢化課題への取組に貢献するだろう。