中野区議会議員の加藤拓磨氏(自由民主党)が「新・中野サンプラザアリーナ構想:区民が求める施設とは」として記事を投稿しています。私も、中野区民として思うことがあるので、私見を申し上げておきます。
中野区長選とはなんだったの
これは、昨年6月に行われた中野区長選に端を発します。中野区長選は、中野サンプラザ(以下、サンプラザ)の解体問題が争点でした。解体を主張していた田中大輔氏(前区長)が敗れ、計画の全面見直しを訴えた酒井直人氏が当選します。ところが3カ月後、酒井区長はサンプラザの解体を進めると発表したのです。
酒井区長は「サンプラザは『再整備する』という公約で、残すとは公約していない」と主張します。その後、メディアにも波及していきます。1月27日放送のTBS系「噂の!東京マガジン」では、『中野サンプラザ解体騒動めぐり新旧区長を直撃』として、いち早く、解体問題を取り上げました。筆者も専門家として「政治家の言葉」をテーマに解説しています。
反響をどうだったのでしょうか。森たかゆき氏(立憲民主党)は『「一万人アリーナ計画見直し」を「中野サンプラザ解体見直し」と捉えて「騙された!」というのは相当無理があるだろうと思いましたが、そのストーリーに都合のいい情報だけつまみ食いして番組を作るとそれなりに説得力が出るんだなぁと、ちょっと怖くなりました』とツイートしました。
録画した噂の東京マガジンを見ました。「一万人アリーナ計画見直し」を「中野サンプラザ解体見直し」と捉えて「騙された!」というのは相当無理があるだろうと思いましたが、そのストーリーに都合のいい情報だけつまみ食いして番組を作るとそれなりに説得力が出るんだなぁと、ちょっと怖くなりました。
— 森たかゆき 中野区議会議員 立憲民主党 (@moritakayuki) 2019年1月27日
酒井区長、森区議(立憲民主党)の指摘する「再整備」とは、サンプラザを壊して再整備するという意味のようです。たしかに、「再整備」には「現状を整える」という意味がありますが、それならば、最初からサンプラザを壊して再整備すると公約すればよかったはずです。私を含めて、有権者にきっちり伝わっているとは思えません。
さらに、酒井区長は中野区の職員として要職にありました。すでに解体のための計画が進行しているため止められないと言われているようですが、職員として要職の立場にあった人物が事前の解体計画を知らなかったとは思えないのです。
メディアはどのように報道したのでしょうか。産経新聞(2018.6.4)は、「田中元区長がサンプラザと区役所を解体し、1万人規模のアリーナを中心とする集客施設の建設を計画しているプランに対して、他の3候補は反対か見直しの姿勢を伝えた。酒井氏も『計画ありき』ではいけない」と主張したとあります。
毎日新聞(2018.6.15)には、「新区長が初登庁 サンプラザ解体、凍結表明」と大きく書かれている。「酒井氏は就任会見で、区長選で争点となったサンプラザ解体や1万人収容のアリーナ建設などの中野駅北口整備計画について『一度立ち止まる』と述べ、凍結を表明した」(原文ママ)とあります。
サンプラザの前でなにを叫ぶ?
YouTubeに「中野に一万人収容アリーナと公式で使えない陸上トラックはいらない!!~中野区長選 酒井直人候補・中野区議補選 杉山司候補 街頭演説~応援 立憲民主 枝野幸男代表、蓮舫副代表、長妻昭代表代行 18.6.8 – 31.01.2019, 13_36」という動画がアップされていたので紹介します。
蓮舫副代表の応援演説は、4分50秒からはじまります。中野区の待機児童が6番目に多いこと、少子化、高齢化、社会保障の増加など、もっとお金がかかる施策があることを説明します。そのうえで、1万人規模のアリーナが必要か、収入だけでやっていけるのか、行政が考えるべきは宴のあと(オリンピックのあと)だと力説します。
枝野幸男代表の応援演説は、7分29秒からはじまります。サンプラザは若者にとってあこがれの舞台であること。2000人規模のホールは時代に適合した理想的なサイズであること。中野の街とマッチしてブランド力があることを力説します。長妻代行も選挙カーから「サンプラザは守る」と声を振り絞っていました。
この演説は、サンプラザを前にして行われています。どういう了見なのか不可解です。サンプラザが老朽化して多くの費用がかかるという声がありますが、これは選挙前から分かっていたことです。大義が見当たらないのであれば安易な解体は受け入れにくいと思います。
不可解なサンプラザ解体
選挙戦で、酒井区長(新区長)がサンプラザの解体を明言していたら結果はどうなっていたでしょうか。筆者は、サンプラザ解体には反対の立場です。これは、古いものに対してノスタルジックに浸っているのではありません。プロセスが不透明だからです。
政治家が言葉を使い分けること、これは大切なスキルであることは言うまでもありません。しかし、有権者にとって裏切られたような印象を残すことは好ましくありません。信頼感が揺らいで政治不信につながる危険性があるからです。言葉の解釈で押し切っても有権者は納得しません。政治家の説明は具体的でなければ説得力がありません。
今回の区議選においても、多くの候補者が「サンプラザ解体に関する問題」を認識していながら一切回答を留保してきました。中野区としても具体的なマイルストーンの公表は控えてきました。サンプラザ解体までの猶予はほとんど残されていません。
尾藤克之(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)
14冊目となる著書『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を上梓しました。