日経に興味深い記事が掲載されていました。「市販薬あるのに病院処方5000億円 医療費膨張の一因」。読んで字のごとくであります。病院の処方箋で貰う薬は多すぎるのではないか、というものです。
記事の中に比較が出ています。湿布薬が市販598円に対して3割負担の処方箋なら105円、脂質異常の改善薬は市販5524円に対し処方823円、鼻炎は1590円に対して482円…といった具合です。
よく見ると処方箋は3割より安いものもあります。上述の湿布薬は17.6%、脂質異常の薬は14.9%、鼻炎が30.3%となっています。想像するに鼻炎は病院に行く暇がない人が市販薬を買うため、市販薬の価格が競合により下がっていることで数字的にマッチしているのに対して脂質異常のような薬は医者に診てもらうことが先にありきで市販の競合薬が少なければ価格差はより大きくなるということでしょうか?
私が時々耳にする言葉があります。「医者に掛かって薬をもらってこよう」であります。この言葉には二つの意味があると思います。一つは適正な薬を処方してもらうこと、もう一つは安い薬をゲットしよう、であります。
ではドラッグストアに薬剤師がいるのになぜ、その人に相談をしないのでしょうか?想像するに「薬剤師だから」であります。薬剤師は「薬には詳しくても私のカラダの状況は把握していないでしょ」という訳です。カナダで処方箋をもらうと日本同様、細かい薬の説明を受けます。が、薬剤師はあくまでも薬のスペシャリストであって病気やけがのスペシャリストではない点で「やっぱりまずはお医者様よねー」になってしまうのでしょう。
先日もこのブログで書きましたが医者も医者でとにかく処方箋を書けば患者は満足する的なところがあります。まるでお土産をたくさんもらうがごとく処方箋を抱えて帰ると「あぁ、医者に行ってよかったわー」になります。手ぶらで返さない医者のサービス精神というところでしょうか?
ちなみに処方薬5469億円のうち最も多かったのが湿布薬702億円、次が保湿剤成分薬で591億円とあります。こう言っては失礼かもしれませんが、比較的お年を召した方向けの薬が主体ということになります。
日経の記事にはこんなくだりがあります。ある専門家のコメントして「市販品が増えれば病院にくる人が減り、病院経営に響きかねない。あまり広めたくないのが医者の本音」。病院は薬局への登竜門のようなものになり下がったとも言えないでしょうか?そういえば東京に行くと近所に足や腰のクリニックなるものがやけに増えた気がします。
カナダでは月々の保険料を払う限りにおいて医療費は無料です。その代わり薬は民間の保険に加入していなければ全額患者負担になります。民間の保険とはExtended Medical Planと称するもので企業などにお勤めの方で会社が加入する保険プログラムに任意で参加するもので通常、歯科保険や処方箋保険などがパッケージになっていて概ね8割、保険で負担してくれます。
保険料は会社によりますが、会社側と従業員の間で任意に負担割合を決めています。私の会社は50/50で個人負担は月々5000円ぐらいでしょうか?まぁ、元は取れないですが、そういう趣旨のものではありません。またこれはグループ保険なのでグループ内に保険を使う人が多いと翌年保険料がどんどん上がる仕組みです。(内心、お願いだから保険を使わないで、と祈ることもあります。)
個人的にはカナダ同様医療費の保険適用は医者だけ、ないし、特殊薬だけという限定にしていき、市販薬での代用が効くものに対しては保険適用外ないし、3割負担ではなく7割負担ぐらいにするべきなのでしょう。それに対して民間の保険会社がそれをカバーする商品を開発することで保険=国の全面的負担の構図を切り崩していく構造的改革が必要かと思います。
もちろん、これを急に行うと医者も困りますが、患者がもっと困ります。年金同様いわゆる「既得権」的な状態にありますので1世代ぐらいの時間をかけて構造改革をしていくプランにせざるを得ないでしょう。
しかし、何事も一歩踏み出さないと何も始まりません。政治家がポピュリズムと保身で「そんなことできない」と言っていては日本は変われません。これによる保険への直接効果は5469億円の部分ですが、目に見えない医者通いの大幅減少に繋がるはずで医者には申し訳ないですが、医療費の膨張に大きな救いの手となると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月14日の記事より転載させていただきました。