参議院選挙で年金問題がよく話題になりますが、肝心の年金制度をどう改革するのかという政策がはっきりしません。ただ一つ「年金を減らさない」と明確に公約に掲げているのが共産党です。どうやって減らない年金にするんでしょうか?
それは簡単です。年金を減らすマクロ経済スライドという制度を廃止するのです。これによって「年金が7兆円減るのを防げる」と共産党は主張しています。マクロ経済スライドという言葉は何のことやらわからないと思いますが、日本年金機構の説明によると次のような制度です。
賃金や物価による改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことによって、年金の給付水準を調整します。
これでもよくわかりませんね。簡単にいうと、これは共産党のいうように年金を減らし続けるしくみです。図1のように、本来は上がるはずの年金支給額(実質)を減らすのがマクロ経済スライドですが、役所が「減らす」という言葉を使わないのでややこしいのです。
図1
政府の計画では2040年に基礎年金(国民年金)の支給額が25兆円になるのを、マクロ経済スライドでゆるやかに7兆円減らし、毎年18兆円にする予定です。だから共産党のいうようにマクロ経済スライドを廃止したら年金は減りません。当たり前ですね。
なぜ政府は年金を減らすんでしょうか? それは年金会計が大赤字で、これからも年金をもらうお年寄りが増え、年金保険料をはらうサラリーマンが減るからです。
いま年金を減らさないと、これまで積み立てたお金がなくなって、将来よい子のみなさんのもらえる年金が大きく減ります。そこで今のお年寄りがもらう年金を少し減らして、積み立て金を温存しようというのがマクロ経済スライドのねらいです。
たとえばサラリーマンの賃金(名目)が2%上がったとき、普通の「物価スライド」なら年金支給額も2%上げるのですが、それを1%しか上げないのがマクロ経済スライドです。
ややこしいのは、最近のように賃金が下がったときです。
図2
マクロ経済スライドは賃金が下がるときは行わず、図2のように賃金と同じ比率で年金を減らすことになっていたのですが、実際には年金を減らすことにお年寄りの抵抗が強いので、2015年度から基礎年金は減っていません。2019年度は0.1%増えます。
ちょっと前に国会で問題になった金融審議会の報告書の「年金が2000万円足りない」という話で想定されていた、夫婦2人で厚生年金が約19万円という金額は、マクロ経済スライドで予定どおり年金を減らしたときの数字です。
この報告書を麻生大臣が受け取らなかったのは、安倍政権は年金を減らさないという意思表示でしょう。財政制度審議会の意見書でも、原案にあった「将来の年金給付水準の低下が見込まれる」という言葉が削除されたそうです。
だから共産党の「年金を減らすな」という質問に対して、安倍さんは「おっしゃる通り」と答えればよかったのですが、「バカげた政策だ」と答弁して、あわてていいなおしました。
年金が減らないのは、お年寄りにとってはいいことですが、いま気前よく年金をはらっていると、よい子のみなさんが年金をもらうころには積立金がなくなって、今の年金制度は成り立たないでしょう。
永久に減らない年金はできません。問題は年金を減らすかどうかではなく、いつどれだけ減らすかという問題なのです。この点では自民党から共産党まですべての政党が今のお年寄りの年金を減らさないので、よい子のみなさんの世代の年金は大きく減るでしょう。