今週のScience誌に「Enhanced CAR-T cell activity against solid tumors by vaccine boosting through the chimeric receptor」という論文が掲載されている。固形がんではCTR-T細胞の治療はこれまでの成果では有効でない。そこで、ワクチンを利用してCAR-T細胞の働きをさらに活性化したところ、治療効果が増強されたという論文だ。ただし、人ではなく、動物モデルでの話だ。
以前から、繰り返しているように、がん組織にはがんを攻撃しようとするリンパ球とがんをその攻撃から守ろうとしている分子や細胞が混在して、せめぎ合っている。免疫チェックポイント抗体の効果も、このがん組織内での攻撃側と防御側の比が大きく影響する。CAR-T細胞の効果が発揮できないのも防御側の力が不足していると考え、さらにCAR-T細胞を活性化させる一工夫を加えたものだ。
今後も、世界中で患者さんの免疫力を高める治療法が次々と繰り出されるであろう。CAR-T細胞に加え、ネオアンチゲン療法やがん特異的抗原TCRを導入したT細胞療法などの流れは必至だと思う。国内にはあまり信じる人がいないのが頭痛の種だが。オーダーメイド医療と同じで、世界の常識とならないと目覚めないのが日本だ。しかし、新しい免疫療法の流れが定着するのはあと2-3年先にやってくるように思えてならない。
来週の土曜日(27日)午後2時から浅草ヒューリックホールで、東京、大阪、福岡の3か所の免疫療法クリニックが中心となって開催される市民公開講演会がある。私は冒頭に45分間の講演をする。
今、このポスターを見て1000円の有料であると初めて知った。私の講演にその値打ちがある自信はないので、申し訳なく思っている。しかし、福岡の森崎隆先生のクリニックではすでに多くの症例に対してネオアンチゲン療法に取り組んでおられるので、新しい情報が聞けるかもしれない、と期待している。
世界が大きく動いている中で、このままでいいのかと焦りはあるが、一人の力で動くほど世の中は甘くない。日本に戻って1年間、手探りの状態が続いているが、まだ、暗中模索でもがいているのが実情だ。27日の講演会が単なる発表会で終わることなく、是非、患者さんやご家族の声を生で聞いてみたい。そして、自分がどうあるべきなのか、今一度見つめなおし、考え直し、自分に問いかけてみたい。
これから日本の蒸し暑い夏が始まる。患者さんやご家族が、スカッと爽やかな秋を気持ちよく迎えられるように、思いっきり汗を流すしかない。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。