埼玉知事選に出るのに辞職しない大野元裕議員の欺瞞的な言い訳

上村 吉弘

残り3年の任期を残して、8月25日投開票の埼玉県知事選に出馬表明をしている大野元裕参議院議員(55)が、参院選公示前日の7月3日までに辞職しなかったため、辞職に伴う補選は参院選と合併選挙とはならず、10月10日告示、同27日投開票となる見通しとなった。

大野元裕氏(国民民主党サイトより:編集部)

補選が参院選とは別に行われることで、ポスター掲示板設置や投開票日の人件費など、国庫から持ち出しとなる経費の無駄遣いは同県内の市長補選などを参考にすると3〜4億円となる。8月8日告示の知事選に出るため、大野氏はおそらく8月早々に議員辞職し、8月分の歳費130万円のほか、文書通信費100万円なども丸々手に入れる。事務所維持費や公設秘書給与など8月分の経費全額が予算計上される。

そこまでの財政負担を強いて、大野氏が辞職を見送った理由は何だろうか。巷間語られているのが、合併選挙となれば国政転身が噂される上田清司・現知事(71)が立候補できないため、現職の応援と引き換えに、自らの議席を上田氏に譲るというバーター説である。現に、上田知事は国政転身には言葉を濁らせながらも、大野氏を「全力で応援する」と宣言している。

大野氏は、辞職のタイミングについて、ブログ上で下記のように見解を述べている

参議院議員選挙が始まる前には、「死んだふり解散」を含めたダブルの可能性が取りざたされていました。また、参議院選挙が始まれば、半数の参議院議員は実質的に仕事ができなくなります。つまり、720名程度居る国会議員が最小では120名程度にまで減少する可能性があるのです。この様な中でかりに、有事の事態となれば、国民保護法制や安保法制に則った事態対処が行われ、最悪の場合には半数の参議院議員だけで緊急集会が開催され、国民に代わって政府の対応を監視し、国権の最高機関として判断をすることになります。

自分は国会議員として、人の命を守る政治を標榜し、事態対処などについては専門性を活かした活動を行ってまいりました。かりにこの様な事態が発生した際に、国会議員が大きく欠けているにもかかわらず、自分がなんの役割も果たせないとすれば、政治家として一生に悔いが残ります。この様な分野を専門にしてきた政治家として、国民に対する責任は果たさなければなりません。つまり、この責任を負っている限り、3日までの辞職はあり得ません。

しかしながら、この様な考え方をいくら表明しても、きちんとこの点を伝えてくれたマスコミはないようです。

それどころか、所属していた国民民主党に得な判断をするのか、あるいは現職知事に得な判断をするのかという、自分には本末転倒としか思えない論点ばかりで質問されますが、そのような判断基準は、国民に対してお約束してきた責任と比較すれば、なんの重要性も持ちません。参議院の半数の議員が戻ってくる見込みが立たないうちに責任を投げ出してもよいのであれば、そもそもそんな議席は要らないので、議員定数削減の議論を先行させるべきですが、そういうお考えが太宗でもないようです(ちなみに、自公の参議院定数増+議員歳費削減方案に対越して提出された唯一の対案たる6議席削減案は、小生が起案し筆頭提出者として提出した法案です)。

これまで、この様な考え方を直接表明することはしませんでしたが、多くのマスコミの皆様から取材を受け、意図しない形での報道が流布されている中、自分の考え方を敢えて表明させていただきました。

上記の言い訳を読んで、ストンと腹に落ちる国民がどれだけいるだろうか。ツッコミどころがありすぎて目が回りそうになる。まず衆参同日選になったとして、121人の非改選議員が有事の事態に備えて政府の対応を監視し、国権の最高機関として判断をする(?)という大仰な重責を担うのは、せいぜいが選挙期間中の17日間に過ぎない。

わずか2週間の監視期間に議員バッジを付けていないことが一生の悔いになるのだろうか。少なくとも、国民の1人として、大野氏がいようがいまいが、心の底から「どうでもいい」と叫びたい。それは大野氏の自己満足であって、議員としての義務を果たすという使命感から来ているのではないし、そのような使命感があったとして、我々有権者・納税者にとっては迷惑千万でしかない。

日頃からそんなに緊張感を持って議員活動をしているのであれば、なぜ今回、知事に転身しようと考えたのか。野党としての3年間でどれほどの活動実績を積んだのか。上田知事主導のもと、大野氏は2015年の埼玉県知事選で出馬を模索したが、県内自治体首長らの支持を得られなかったため上田氏が禁断の4選出馬を決めて、大野氏は翌年の参院選で2期目の立候補をした。その時に3年後のバーター密約を交わしたとみられる。であれば、大野氏はそもそも参院議員に大した未練も重責も抱いていないと考える方が、一連の行動理由にピタリと当てはまる。

100歩譲って、その大層な使命感のために衆参同日選の可能性がなくなるまでバッジを外せないと言うのならば、なぜ通常国会が終了した6月26日から7月3日の間までに辞職しないのだろうか。現憲法下で閉会中解散は一度も行われたことがなく、常識的に考えて憲法解釈を巡って議論を呼ぶような閉会後解散を安倍首相が無理強いするなんて考えられないし、首相側近からの話として既に衆院解散が見送られたと全ての主要メディアが報じていたではないか。

それでも怪しいというのならば、7月3日の段階で辞職すれば100%自らの意味不明な使命感を達成して辞職できたはずである。

大野氏の言い訳は、政治家特有の欺瞞に充ちた策略の糊塗に過ぎない。その言い回しが崇高であるほど、高学歴で磨き上げた詐術で国民を騙してやろうとする陰湿さが浮かび上がって寒気がする。

自ら連続3期までと決めた再選ルールを破って4期の任期を務めた上田氏と共に、言葉に重みも説得力もない。嘘まみれのバーターコンビである。

大野氏の言い訳が正しいと思うか、小欄の主張が正しいと思うか。この文章が拡散されることを望む。判断は有権者一人ひとりに委ねたい。

上村 吉弘   フリーライター

1972年生まれ。読売新聞記者、国会議員公設秘書を経験。マスコミ、政治経済に関するブログ記事を執筆し、メディアや政治への関心を高める活動を行っている。