医薬品輸入超過5年連続2兆円超?パラダイムシフトに遅れた日本

今年の上半期の貿易統計値が公表された。上半期の医薬品輸入額は約1兆4916億円に対して、輸出額は3642億円であるので、11274億円の赤字となる。下半期の赤字も同程度とすると年間で約22500億円の赤字になる。このままでは、5年連続の医薬品貿易赤字2兆円超えがほぼ確実である。

20世紀から21世紀にかけて、創薬システムのパラダイムシフトが起こった。多くの化合物をもとに薬効があるかどうかを片っ端から調べていく薬剤スクリーニングから、まず、創薬の標的となる分子を見つけ、それをもとに薬を作り上げていく方向に変わったのだ。

しかし、日本の製薬企業がこのコンセプトを認識できないままに大きな遅れが生じ、多額の医薬品を輸入しなければならない状況に陥ったのだ。今頃、遺伝子パネルで世界と競争できると主張している部分に重なるものがある。

そして、もっと大きな課題となっているのが、日本の製薬企業は海外の研究者には投資するが、日本の研究者には投資しなかった点だ。確かに、私を含め、投資に値する研究者がいなかったことがあげられる。しかし、もっと本質的な点として、ある投資家が指摘したのは、日本の企業の文化として、海外の高名な研究者に投資して、それが失敗をしたとしても、責任者は責められないが、日本の研究者に投資して失敗すると、投資を進めた責任者が責めを負うという点だと言う。減点主義の日本では、これまでの経験からしても、なるほどと頷けるものがある。

こんなことを考えながら、金曜日にあるシンポジウムで司会をしていたところ、演者が米国でTCR導入T細胞療法の治験を始めたと発表した。いつかはこのような日が来ると思っていたが、日本に戻って悶々とした生活を送っていたところなので、自分のふがいなさに焦りを覚えた。もはや、他人に頼って物事を動かそうとしても駄目だと痛感した。

そして、土曜日のシンポジウムでは福岡がん総合クリニックの森崎隆先生から、ネオアンチゲン療法単独でがんが急速に縮小したケースが報告された。シカゴ大学では、がん組織の全エキソーム解析をして、ネオアンチゲンを見つけ、さらに、そこからネオアンチゲン特異的リンパ球を見つけ出すことを6週間程度でできるシステムを確立した。これを利用すれば、3か月弱でTCR導入T細胞療法に持ち込める。森崎先生からは、他の患者さんのデータも見せていただいた。残りの人生は、これに賭けるしかない。

これまでいろいろな形で患者さんへの応用を模索していたが、2年近くが無駄に流れた。もはや、自分でやるしか道は残されていないと思う。情熱のない人と連携しても、1年でできることが10年以上かかるだけだ。患者さんに希望を提供すると主張してきた以上、自分の責任は自分で取るしかない。多額の資金が必要となるが、走り回ってでもかき集めるしかない。2〜3か月以内に決起集会を開きたい。

私の指に止まる人がいるかどうか自信はないが、是非、声をかけて集まって欲しい。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。