孫正義氏の独り勝ち

こうなると好きとか嫌いとか言っている場合ではないかもしれません。孫正義氏には2つのGood Newsが飛び込んできました。一つはソフトバンクビジョンファンド第2号の発表、もう一つは懸案のアメリカ通信会社スプリントのTモバイルによる買収承認であります。

(孫正義氏、自然エネルギー財団サイトより:編集部)

(孫正義氏、自然エネルギー財団サイトより:編集部)

ソフトバンクビジョンファンドは第1号がサウジアラビアからの資金というイメージが強かったのですが、12兆円にも上る第2弾にはサウジの色はなく、ソフトバンクが約35%、それ以外はアップル、マイクロソフト、日本の3つのメガバンク、生保、証券会社が参画します。さらに、ゴールドマンサックスなども検討しているとされています。ある意味ビックネームを全部合わせたような強大なファンドであります。

なぜこんなチームが組成できたかといえばビジョンファンド1号のリターンがソフトバンク分でみると62%というとてつもない成果を上げたことで「乗り遅れるな」という雰囲気になったのだろうと思います。

特に今回は成長産業であるAIを中心に資金を投じていくようですのでAI関係の未上場、あるいは新興企業はごっそり孫正義ファンドの色に染まる可能性はあります。企業側は喉から手が出るほど欲しい資金に手が届く上にファンド内、ないし孫正義氏の企業関係図の中で「成長の組み合わせ」を可能にし、絶対優位なポジションに仕立て上げる勝利の方程式を提供できる強みがあると言えます。

もう一つのTモバイルによるスプリントの買収ですが当局の承認を得たトリックは一部資産を衛星放送サービスの「ディッシュ社」に売却することで競争が寡占にならない折衷交渉ができたものと思われます。もともと孫氏にとってスプリントの買収は失敗に近いものでしたが相当努力し、同社の経営そのものを立て直す支援を継続すると同時にオバマ政権時代に失敗したTモバイルとの「恋愛交渉」がようやく実りつつあるということかと思います。まだ最終ではありませんが、大きなハードルは乗り越えたと思います。孫氏の粘り勝ちでしょう。

実はソフトバンクがこれら2つのGood Newsを発表する前からアメリカのアナリストからは同社の株価は約半値に安値放置されていると指摘されてきました。つまり、ざっくり日本円で1万円ぐらいまで株価が上がってもおかしくないというわけです。同社株式はガサが大きいので海外投資家、機関投資家好みになり、それなりに買い上げられる可能性は高いとみています。

ところで好き嫌いを言っている場合ではない、というのは海外から見ても孫氏のビジネススタンスは世界のトップレベルである点であります。先を見る力、安いところをごっそり買い、育て上げる能力は格段に強化されており、世界の投資家や企業家から高く評価されている点であります。

先般、稲盛和夫氏の盛和塾について本稿で書かせていただきました。典型的な日本的経営であります。一方、孫氏はある意味、真逆に近いレバレッジとパワープレイと言えます。どちらが良いということではなく、ケースバイケースで使い分けるぐらいの器量を持つことが大事なのだろうと思います。ある意味、日本電産の永守重信氏もユニクロの柳井正氏もセブンで長く君臨した鈴木敏文氏も剛腕型でありますが稲盛氏のようなところもあるし、孫氏のようなところも持ち合わせています。

私は経営とは誰かに従事するというより世界中にいる素晴らしい経営者の中からこれは、と思う方をある程度深堀しながら、自分のスタイルにどれが一番近いのか、あるいは自分に欠けている部分はどこなのかを知り、それら先人の貴重な勉強材料をうまく自分に身に着けることだと考えています。

そんな中で最近、日本からゴッツイ経営者が少なくなってきています。有名経営者はみなそろそろバトンタッチするような年齢です。日本人は割と他人に影響を受けやすい傾向があります。とすれば「俺も第二の孫正義を目指してやる」ぐらいのガッツがある人材が育ってほしいと思っているのです。国内はコンプライアンス重視で経営全体が「醤油型企業」になっています。かつての「ソース型企業」は一歩間違えればブラックというレッテルは張られてしまいます。

そんなことしている間に世界では企業の巨大化、国際企業化、寡占化する市場の一角を狙い弱肉強食の激しい戦いが繰り広げられています。株価を見ても失望と狂喜の中で勝ち抜きが進んでいきます。それがよいのかどうか、議論はあるところですが、私は孫正義氏の経営スタイルには少なくとも学ぶべき戦略が大いにあると考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月29日の記事より転載させていただきました。