日本に派遣労働という仕組みが定着したのち、企業は安い労働力を駆使して激戦のビジネス界を戦ってきました。いわゆるデフレ経済の一翼を担ったのはこの低賃金化と企業の従業員お抱え方式からの解放があったことは否定できないでしょう。
ただ、近年になり、企業が優秀な派遣社員を社員へ登用するなど派遣社員の待遇改善はだいぶ進んできました。併せてベアなどを通じた賃金の底上げがこの5-6年進み、極端なデフレマインドからは脱却しつつあります。
その中で最近の企業トレンドの中に一部業種で圧倒的人材不足が見られ、給与の急上昇が見られます。特にAI関係といった最先端のテクノロジー分野では日本では人材確保が追い付かず、富士通のように海外に特定研究分野を移す企業も見受けられるほどになっています。
併せていわゆる団塊の世代が経営陣から退く年代となっており、世代交代が進む中でより優秀な若手を登用する動きも出ています。ファストリテイリングが日本事業のトップに据えたのは弱冠40歳の赤井田真希氏であります。想像ですが、柳井正氏にとって履歴美人ではなく、ウマが合う人材だったのだろうと思います。氏の「1勝9敗」の敗北経験からの判断でしょう。
働き方改革を通じて残業をせず、ワークライフバランスを重視する会社が増えてきました。ただ私から言わせると従業員はその表層的な言葉に騙されてはいけないと申し上げます。企業が言う「NO残業」とは今まで10時間12時間と会社で過ごしていた時間を8時間に効率アップせよ、と言っているに過ぎないのであります。つまり、皆さんの作業効率を2割から4割改善せよ、ということです。
そこには無駄な会議はするな、社内の判断決裁をよりスムーズにせよ、権限を委譲せよといった経営者目線以上に働き手の意識改革を促すものであります。これは期待として捉えています。
一方でこの歯車が回り始めた時、必ず落ちこぼれる社員はいるものです。会社のルールは極端に言えば明日変わるかもしれません。しかし、人の働き方は長年染みついたものがあり、ひょっとすると根本的にもう変えられない人も多いはずです。この人たちが組織から弾き飛ばされる可能性すら否定しません。そういう人が入る企業のお仕置き部屋、つまり書類保管庫業務や資料整理室などと称する何もしない部署で日々苦痛を耐え忍ぶような人が増えないとも限りません。
もう一つはこれから社会人になろうとする人たちへの懸念です。企業の大きな地殻変動が起きつつあるのに教育システムが変わっていないことで企業のニーズに合った学生が十分育っていないということが考えられます。企業はその場合、海外に人材を求める公算はあり、日本の若者の社内競争は世界との戦いにされされる可能性も指摘しておきましょう。
年金問題で話題になった「平均値」は今の教育基準の原点であります。平均値主義つまり、偏差値主義なのですが、これを根本から崩すべく時代に来ていると考えています。今の教育制度、つまり一定点を取り、大学で一定の単位をとることでバランスという名の平均的若者の大量生産はもう変わらねばなりません。小学生の時に何か打ち込むものを2-3つ経験し、自分で探る癖をつける、そして秀でた人材をもっと引き上げる、そんな教育が必要です。
東大より難関といわれる東京芸大の入学試験を乗り越えた学生は一歩間違えれば変人に近いような方もいらっしゃるようですが、人の才能をとことん磨き上げるとこんなに尖がっちゃうんだな、とびっくりします。
「能あるものは給与で賄われる」時代になってきました。同じ同期入社で5-6年後に100円、200円の給与差しかつかない子供騙しの給与体系は終わりました。新興企業では100万円、200万円の差がつく時代です。そこにはかつてない熾烈戦いが繰り広げられるかもしれません。
勝ち組とそうではない組(負け組とは言いません)の違いが出てくるとも言えそうです。そこを生き抜くには自分が光る能力を磨くことが重要ではないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月30日の記事より転載させていただきました。