参議院の介護負担は、実は逆効果になるかもしれない --- 山中 康弘

寄稿

昨日、参議院に当選した障害者の議員が無事に登院した。いろいろな意見があったが、無事に登院できたことは、良かったと思う。

NHKニュースより:編集部

しかし、今回は、参議院の方が介護負担をする形で実現できた。これは、国の配慮として当然のことだ。私も、3年、国の機関で働いたことがあるが、国の機関として、予算があり、お金の使い道を国民に説明できれば予算が執行できる。今回は、特例で介護負担が認められたと思うので、来年度以降、同じように参議院が介護負担を行うのかは、衆参の予算委員会で議論すべきだし、全国会議員の過半数の賛同を得ることが筋ではないかと思う。

そして、今回、参議院の方が介護負担をする形で実現できたということを言い換えると、雇用の方が、介護負担をすることになる。れいわ新選組が要望している公的サービスの重度訪問介護サービスは利用できず、参議院の方の配慮により実現できたことを明確にしておかなければならない。

これは、何を意味しているだろうか?

「雇用主側が、介護負担を行う」という前例を作ったことになる。

今後、障害者が企業に就職する場合、企業側が介護負担を行うようになっていくことは、逆に、企業が障害者雇用しなければならないということになれば、ますます障害者雇用に消極的になってしまう懸念がある。

重度訪問介護サービスは、月に100万円以上の介護費用が必要になる。果たして、それだけの費用を出してまで、重度障害者を雇用するところが現れるだろうか?もし、現れたとしても、「障害者に優しい」というイメージ効果を狙って雇用することになるだろう。

ということは、国や大企業のように、お金を持っている企業でしか、障害者を雇用することができず、すべての障害者が働ける社会から、遠ざかることになる。

障害者の保護者の意見として、私に「これは議員特権であり、一般の障害者には何も関係がない」という意見が寄せられた。ある意味、正しい意見だと思う。やはり、障害当事者として、すべての障害者が働ける社会にしてほしい。

今回、参議院の介護負担で、彼らの登院が実現できたが、その一方で、音喜多氏のブログによれば、「結論としてれいわ新選組会派には、厚生労働委員会の枠は割り振られなかったようです」とある。これが意味していることを考えないといけない。

重度訪問介護サービス等の問題は、厚生労働委員会で議論されるということから、参議院としては、厚生労働委員会で彼らが主張することを許していないということを深く考えないといけない。

言いかえると、参議院は、彼らに配慮したように見せて、実は、彼らの言論を封殺してしまったという見方ができる。政権側としては、参議院に合理的配慮させることで、ただの議員にしてしまうことを考えているかもしれない。

本当に、障害者のために政策を考えているのであれば、一番に厚生労働委員会で発言できることを考えて、自己負担で国会に登院し続け、訴え続けることで、話題性を引き延ばすべきで、そういう戦略もあったと思う。

永田町のなかにあるたぬき・きつね学に支配されるようであれば、彼らの主張は言いくるめられ、結局、従来通りの政治になってしまう。それによって、彼らは、有権者から信頼されなくなるだろう。そこまで考えて行動していただきたいものだ。

山中 康弘 バリアフリーオフィス代表

出産時に脳性麻痺と診断され、母と訓練等、様々な努力を続ける。6歳の時に自力で歩けるようになる。大学、大学院に進学し、 国立障害者リハビリセンター研究所を経て、バリアフリーオフィスを設立する。