7月23日にロシアのAWACS(早期警戒管制機)が竹島領空を侵犯し、これに対して韓国が警告射撃を行った。そして、これがクローズアップされて大々的に報道され、あたかもこの領空侵犯がロシアによる韓国や日本に対する挑発行動であったように各種の報道で取り上げられている。
しかし、今回新たに判明した事項などから、どうやらこの日のロシア機や中国機の活動はそのような単純な話ではなさそうなことが判ってきた。この日の活動の詳細は、7月24日の拙稿「ロシア機による竹島領空侵犯は現在の日韓関係が起因」で触れたので本稿では割愛させていただく。
防衛省統合幕僚監部が7月24日に公表したため、23日には分からなかったが、7月22日に中国海軍東海艦隊所属のフリゲート艦「ジャンカイⅡ(FFG529:4050トン)」が、対馬海峡を北上して日本海に入っていた。
その後の活動の詳細は不明ながら、翌23日に対馬海峡を南下して東シナ海方面へ帰投したことから、22日から23日にかけて韓国の東方海上から竹島周辺あたりで活動していたものと推定される。ということは、この日の中国爆撃機(H-6)2機とロシア爆撃機(Tu-95)2機、並びに竹島の領空を侵犯したロシアのAWACS(A-50)が飛行した付近の海域で活動していたということである。
前出7月24日の拙稿でも述べたように、筆者はこのロシア機(A-50)は意図的に竹島領空を侵犯したものではないと推測していた。2回目の領空侵犯時に韓国のスクランブル機から2回にわたる360発の警告射撃を受け、これを視認したと見えてここから大きく右旋回して進路を東にとって北上したことが、その航跡からも窺える。
ただ、なぜ管制誘導や指揮統制などを主任務とするAWACSが単機で竹島南方の空域まで進出するような危険な行動をとったのかが解せなかった。しかし、この中国艦艇の活動によってようやくこれが理解できた。つまり、A-50はこの中国艦艇を探しにこの空域まで南下してきたのである。なぜなら、AWACSにとって海上目標(艦艇)は航空目標(航空機)よりはるかに見つけにくい存在なので、対馬海峡から北上してくるこの艦艇に近づく必要があったからだ。
ということは、この中国艦艇も今回の中露による一連の軍事活動に何らかの形で参加していたということになる。今回飛行した中国の爆撃機が、その機番や帰投方向から、この艦艇と同じ東海艦隊に所属する航空部隊のものであったことからもそれは間違いないだろう。つまり、今回の軍事活動は少なくともロシア空軍と中国海軍(艦艇及び航空機)による共同の哨戒活動又は訓練だったということになる。
しかし、中国海軍とロシア空軍だけが共同でこのような活動を行うというのはどうも腑に落ちない。恐らく、今回は表に出てこなかっただけで、ロシア海軍も何らかの形で艦艇などが参加していた可能性があると筆者は考えている。
では、この一連の活動の意味するところは一体何だったのだろう。もちろん、日米韓に対する軍事的示威活動であることは間違いない。しかし、今回の活動には、異なる国や軍種、さらに航空機や艦艇が絡むというその複雑さから、昨日今日企画して実行したものではなく、事前に中露両軍が入念な打ち合わせをして計画的に実施したものと考えられる。
言い換えれば、中露共同演習のような枠組みで計画された活動であったということである。ただ、演習というには、今回の活動はいかにも散発的で一貫性がなく、艦艇も単艦でその目的もよく判らない。
要するに、これは今後の空海共同演習にさきがけて(一部の航空機や艦艇が)この海空域に進出して偵察し、各国の反応を確かめる目的で行われたものではないだろうか。だとすれば、いずれ近いうちに「日本海において中露両国の海空軍による共同演習が行われる」可能性があるということである。
筆者の推測が的外れであることを願うが、このような事態も想定して備えておくに越したことはないだろう。ロシアや中国の爆撃機や戦闘機、そして艦艇などがこのような海域で(戦闘を目的とした)共同軍事演習をするようになれば、それは北朝鮮の弾道ミサイルの脅威をはるかに凌ぐものとなるからである。
鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。