日本政府は2日、輸出の優遇処置の対象国「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣僚決定した。これを受け、7日には交付され、28日には発効することになった。韓国側は日本政府の決定を「遺憾」として抗議する一方、対応に乗り出している。日本政府の今回の閣議決定は、7月の半導体材料の3品目の輸出規制に次ぐ、対韓政策の第2弾だ。
それに先立ち、河野太郎外相は1日、バンコクで韓国の康京和外相と会談し、日本政府は2日、韓国を輸出優遇国の「ホワイト枠」から除外することを閣議決定する意向を伝達した。それに対し、康外相は、「ホワイト国から韓国を除外しないでほしい」と要請し、両外相は意見の相違を埋めることができなかった。予想されたことだが、両国間の溝の深いことが改めて明らかになったばかりだ。
ところで、康外相は1日、「日本が安全保障上の友好国として輸出上の手続きを簡素化する『ホワイト国』から韓国を除外すれば、韓国政府も対応を講じざるを得なく、両国の安全保障協力の枠組みを検討することが不可避となる」(韓国聯合ニュース)と述べている。
同外相の発言を可能な限り好意的に解釈すれば、「日韓は対北で連携しなければならない時だ。日本側の政策はその精神に反する」という韓国側の精一杯の批判だ。康外相の発言を憶測を含めて拡大解釈すれば、「日本が韓国に敵対行為を続けるならば、わが国は日本とは如何なる安保政策も連携できない」、「日本はもはや韓国の同盟国ではなく、敵国となる」という脅迫の意味合いが含まれている、と受け取れるのだ。
ここで問題となっているのは軍事情報包括保護協定(GSOMIA)だ。日韓が北の核・ミサイル関連情報を共有する目的で締結され、2016年11月に発効した。協定は1年ごとに見直しが行われる。両国の合意があれば自動的に延長される。今回は8月中旬に同協定の破棄、ないしは自動延長を決定する時を迎える。康外相は今回、「日本とは対北軍事情報をもはや共有しないぞ」と警告したわけだ。
文在寅政権が発足して以来、韓国軍は北朝鮮をもはや「主敵」とはみなさなくなった。文政権は、北に対しては南北融和政策を実行する一方、日本に対しては過去の両国間の国際条約を破棄し、反日攻勢を連日続けてきた。
過去の経緯から康外相の発言を再検証すると、その内容は過激なものとならざるを得ないのだ。以下は当方の憶測だ。
「韓国にとって北朝鮮の非核化はもはやテーマではない。日本がわが国の主要敵国となった以上、北の核兵器は韓国を日本の攻撃から守る重要な武器となる」という意味合いが含まれてくる。要するに、北の大量破壊兵器で日本を脅かすことも辞さないぞ、といった脅しが暗示されているのだ。
上記の憶測はかなり過剰な解釈かもしれないが、日韓両国関係を考えるならば、非現実的なシナリオといって一蹴できない深刻さがある。北朝鮮は日本を敵国と見なしている。歴史的な背景もあって、反日だ。一方、韓国は文政権が発足して以来、連日反日の言動を繰り返してきた。文政権にはそれ以外のテーマがないと思われるほどだ。状況は当方の憶測が全く的外れとはいえなくなるのだ。
北は短距離弾道ミサイルを発射したが、韓国側の反応がいまいち曖昧であり、明確な批判を表明するまでに時間がかかる。金正恩朝鮮労働党委員長の気分を害してはならない、といった配慮が文政権には強いからだ。
康外相の発言は深い思慮の末、語ったものではないのかもしれないが、韓国の政治家にとって北は同民族であり、日本は過去、植民地化した国だ。いざとなれば、南北は容易に連携、結束できる、という思いが強い。北の非核化がスムーズに進展しないのは、北側の戦略が奏功していることもあるが、韓国側にも北の核兵器を含む大量破壊兵器は南北再統一の暁には日本に対して利用できる武器、という思いが払しょくできないからだろう。
韓国は自力で核兵器を製造できない。人工衛星(ミサイル)でもロシアのエンジンがなければ発射できないのが韓国の技術だ。一方、北側は既に核保有国となった。ミサイル発射技術も修得済みだ。その軍事的武器は南北再統一後は大きな武器となる。それをあえて放棄する必要などないと文政権が考えても不思議ではない。
GSOMIAは朝鮮半島の安全を確保するうえで重要だが、同協定の破棄は日本側より韓国側にダメージが大きいのではないか。北が核実験した場合、それを実証するためには放射性希ガスの検出が欠かせられないが、包括的核実験禁止機関(CTBTO)が設置している国際監視システム(IMS)にはロシアのウラジオストックの観測所と日本の高崎観測所に希ガス監視施設があるが韓国国内にはない。対北ミサイル問題でも、北が発射したミサイルについても韓国軍は過去、政権の政治的な思惑もあるが、迅速な決定が難しかった。
すなわち、韓国側の独自の対北軍事情報は多くなく、実際は米国や日本からの軍事情報に依存してきた面が否定できない。日米の人工衛星が寧辺核関連施設などを常時監視している。
韓国側はその現実を知らないはずがない。それではなぜ康外相は「日韓の安保保障協力に見直し」発言をしたのだろうか。うがった見方をすれば、韓国国内の反日に火をつける一方、米国の干渉を期待したパフォーマンスではないか。北の非核化を推進するうえで日本が大きな障害となってきた、という韓国側のメッセージを米国に伝達するために恣意的に状況をエスカレートさせているだけではないか。
文大統領は2日、日本政府の決定に深い遺憾を表明するとともに、「現在の状況をこれ以上悪化させないように交渉する時間を持つことを求める米国の提案にも応じなかった」(中央日報)と米国の調停にわざわざ言及している。非常に狡猾な大統領だ。日本は北を真似た“韓国流の瀬戸際政策”に乗らず、冷静に対応すべきだろう。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月3日の記事に一部加筆。