アゴラ月間1000万PVのメディアパワー:新聞や雑誌との比較

秋月 涼佑

アゴラの月間PV(ページビュー)が1000万の大台を回復したとのこと。

【御礼】アゴラ3年ぶり月間1000万PV:テレビとヤフーの“隙間”で

Yahoo!ニュースへの配信終了によるページビュー大幅減の困難さは容易に想像できるので、新田編集長Twitter「Yahoo!ニュースに切られたけど、よくここまで持ち直したよ。」というコメントは、まさに本音だろうし編集長はじめ編集部努力の快挙と言ってよいように思う。

今年の年始頃からアゴラ執筆陣の末席に加えていただき、多くのアゴラ読者の方に読んでいただけることに張り合いを感じつつ拙稿を寄せさせていただいている筆者としても、素直に大変喜ばしい。

長く広告代理店で、メディアプランニング・分析、メディアバイイングにも関わってきた立場としてみても大変興味深い数字と感じるので、少々試算してみたい。異なるメディア間での1接触あたりの効果は、それぞれのメディア特性やコンテンツのフォーマットが違うので実際には色々な解釈や方法の幅がある。

厳密には接触時間や原稿の大きさ、文字の量などあらゆる要素を勘案するべきだが、ここは専門性を追求する場でもないので、それを承知の上として非常に大まかにではあるが比較をしてみたい。

テレビや新聞という巨大マスメディアとは接触量に差があり、ポジショニングが異なる

1000万PVという数字はテレビで言えば地上波での全国ネット番組視聴率20%マイナスα程度と同等の接触量と評価できるだろうか。アゴラであれば月間PV、テレビについては1番組での視聴率と考えれば、やはりいかにテレビが巨大なメディアであるかとも言えるが。

今の時代テレビで超硬派の論説番組が1回の放送で20%も視聴率を取ることは非常に難しく、週1回放送で視聴率5%弱という論説番組が月間で獲得するボリューム感に近い接触量と言えるかもしれない。

新聞と比べるとすれば、現在発行部数1000万部を超えている新聞は存在しないが、最大部数の読売新聞で8,114,816部(2019年3月 新聞発行レポート 日本ABC協会)。読売新聞のメディアデータによれば回読率が朝刊で2.4人(自社調査だけに結構高い数字)、2000万人弱が毎朝、読売新聞に目を通している計算になる。記事単位で言えばもっと接触量は多いだろうし日刊でそれだけの接触があるわけだから、部数減などを指摘されながらも、やはり巨大メディアであることに変わりはない。

何にせよ読売新聞社が4,630人(2017年3月期)のグループ社員を抱えながらの巨大事業であることを考えれば、アゴラの1000万PVは大健闘といえるだろう。

とはいえ、やはりテレビや新聞のような巨大マスメディアと比較すべきは、Webの世界においてはYahoo!などのポータルサイト。つまりアゴラとはポジショニングが違うWebサイトであるようには感じる。

接触量の面で、ひとかどの総合誌を超えつつあると評価し得る

内容から考えても最も近しいメディアはやはり雑誌だろうか。評論・文芸、総合誌の巨塔「文藝春秋(月刊)」の実売部数238,288部(一般社団法人日本ABC協会)。

回読率を2.4人(文藝春秋媒体資料)とすると1冊あたりの読者57.2万人である。もちろんすべての記事を隅から隅まで読む人もいれば、回読者の中にはせいぜいグラビアにチラッと目を通す人まで様々だろう。平均何記事読まれるかのデータは残念ながら見つけられなかったが、仮に平均的に10記事読まれるとすれば572万である。

もちろん、ネット記事のページビューの概念と雑誌の1記事を等価であると簡単には評価できないのだが、アゴラが1記事1ページで編集していることを考えると、あながち無謀な比較とばかりはいえないような気がする。

もちろん、伝統と名声を誇る総合誌「文藝春秋」を現時点で凌いでいこうという考えは謙虚な新田編集長にもアゴラ編集部にまったくないだろうが、接触量をみればきちんとしたポジションを確立し一定の影響力がある雑誌を凌駕しつつあるとも言えるのである。その点は多くの熱心なアゴラ読者が支える数字であり、過小評価すべきではないだろう。

ミドルメディアの果たす役割

ミドルメディア(Wikipedia)

アゴラ新田編集長自らがアゴラを「ミドルメディア」と定義しているが、まさにわかりやすい説明であるといつも感じている。テレビや新聞、ポータルサイトのような巨大マスメディアとは一線を画し、得意領域を掘り下げオピニオンに特化する方向性。

アゴラFacebookカバー写真

メディアとしての在り方も、伝統あるレガシーメディアと違い、新興メディアとしての良い意味でのベンチャー精神、発想や編集方針の柔軟さを持ちつつ、個人運営のブログ等では実現できない信頼性やプロの編集力により、レガシーメディアであるマスメディアとそん色ない選択肢になり得る存在。

そんな独特のポジションを「ミドルメディア」という言葉はとても端的に表現している。

一方で、接触ボリュームは多くの雑誌を超えつつあるようだ。もちろん長年各誌が培った、信頼感や雑誌ならではの魅力は独自のものであり、一概にリスペクトこそすれアゴラとして競争の対象ではないだろう。しかし、それぞれの専門領域に特化し発信するメディアとしてのコンテンツ特性は「ミドルメディア」としてのアゴラや同様のWebメディアと雑誌は重なるものがある。

やはり相対的にはこんなにも短時間で、新興のWebメディアがそこまでの立場になり得たことの背景には、厳然たる費用構造の違いがある。編集に関わる費用を別としても、印刷し配本しリアルの売り場で売るコストが絶対的にかかる雑誌というメディアと、デジタル上で編集制作、配信が完結するWebメディアでは土台数桁単位で費用に違いがある。

私自身愛してやまない雑誌メディアだが、やはりWebメディアへの移行は歴史の必然と言わざるを得まい。実際に雑誌で培った編集力をいち早くWebコンテンツとして展開した現代ビジネスや東洋経済オンライン、ダイヤモンドオンラインなどは、その知名度や信頼感のアドバンテージもありすでに「ミドルメディア」以上の存在となっている。

メディア激動の時代に、Webだからこそ実現した「ミドルメディア」という発明。従来のメディアでは実現し得なかった、マスメディアとしての信頼感や矜持を担保しつつ、同時にレガシーメディアがその権威主義の中でともすると忘れてしまった自由闊達さや柔軟性という本来のジャーナリズム精神を発揮しつつ、さらなる発展をして欲しいと願っている。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。秋月涼佑のオリジナルサイトで、衝撃の書「ホモデウスを読む」企画、集中連載中。
秋月涼佑の「たんさんタワー」
Twitter@ryosukeakizuki