顧客をスルメではなくイカとして扱うこと

生きたイカとしての人間を客観的諸属性に還元すれば、死んで干からびたスルメになる。

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金融機関として、預金、投資信託、保険、住宅ローン、消費者ローン等の業務を取り扱うとき、本来は、そこには、生きて、動いて、悩んで、苦労し、喜んでいるイカとしての顧客がいるはずである。しかし、実際に金融機関の人間の見ているものは、年収、職業、年齢、家族構成等の一定の属性に還元されたスルメとしての顧客である。

あるいは、スルメとしての顧客すら見えておらず、自分の手元で処理しなければならない事務手順と、記入されなければならない書類等だけが見えているのかもしれない。

また、顧客が金融機関において見たいと期待しているのは、本来は、自分の悩みや苦労を理解して、親身な相談にのってくれるはずの生きたイカとしての職員のはずだが、実際に見るものは、マニュアルに従って、干からびた説明をするだけのスルメである。しかも、しばしば、金融機関自身の利益のために行動する食えないスルメである。

個人金融サービスは、それ自体としての価値はなく、生活の必要に密着したものとして、目的を実現してこそ、価値を生むものである。そこでは、金融商品の販売や、金融サービスの提供という表層が問題ではなく、その表層の裏にある生活の必需こそが問題なのだから、生きたイカとしての人間の生活に密着しなくてはならないはずである。

金融庁は、金融機関に顧客本位の業務運営の徹底を求めているが、その主旨は、顧客をスルメではなくイカとして扱えということである。

さて、ならば、金融庁も金融機関をスルメとしてではなくイカとして扱うのか、金融庁は、金融監督庁としての発足以来、徹底的に金融機関をスルメとして扱ってきたのではないのか。実は、現在の金融庁は、金融機関をイカとして扱い、生きたイカとの対話を目指しているのである。

 

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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