多くのビジネスパーソンは日常的に様々な資料を作成している。しかし、いい資料を作成したつもりでも、その意図が相手に伝わらないことがある。
実は、資料に書き込むことはほぼ決まっており、各パートで何が書かれるかには一定のパターンがある。優秀なビジネスパーソンなら周知している鉄則である。
今回は、『「A4一枚」から始める最速の資料作成術社内プレゼン一発OK!』(CCCメディアハウス)を紹介したい。著者は、組織人事コンサルタントの稲葉崇志さん。人材教育や制度改革のコンサルティングなど組織人事領域専門としている。
資料は「A4一枚」にまとめろ
あなたの名前は稲葉さん。激辛インテリ商事(仮名)に勤務する2年目の社員で営業部に所属している。上司の、生方課長が「最近、売上が落ちているので営業資料を刷新すべき」と指示を出した。稲葉さんが資料を一枚にまとめたところ、「お客さまは枚数を重視する。そんなショボイ資料を誰が見るんだwwん?」と却下されてしまった。
そんなとき、管理本部統括の間野専務から全社員に通達がある。内容は「印刷費が増加傾向にあること。資料の枚数は少なくすること。カラー印刷は原則禁止。社内打合せにはヤレ紙を使用せよ」というもの。さらに、各グループ毎に印刷費を管理していくことや、コストに応じた負担をすることが発表された。
生方課長はメンバーを集めた。「お前たち、専務のお言葉を聞いたか!すべての資料は一枚にまとめろ!ピンチはチャンスだ!夢に日付をいれろ!途中で諦めるな!夢にときめけ!明日にきらめけ!」。まるで、夕焼け番長さながら、青春漫画のようなセリフを繰り返すばかりだった。注)なお、本ストーリーはフィクションである。
稲葉さんは、「A4一枚」のメリットとして、多くの企業で「A4」サイズを定型としていることを挙げている。そのため、作成者の負担を減らし、読み手の負担を減らす効果がある。ビジネスパーソンはほぼ毎日なんらかの資料を作成しているとしながらも、その多くの資料はA4サイズだとも指摘している。
(稲葉さん)「いま残業時間の削減が課題となっています。非効率な仕事をしている余裕はありません。読み手側にとっても時間に追われている状況は同じことです。ビジネスの現場では日々膨大な数の資料が作成され続けますが、忙しい上司に複雑な資料をじっくり読み込む余裕はありません」
「紙一枚」を提唱する企業は、有名なトヨタの例をはじめとして少なくない。紙一枚資料はわかりやすく視認性のよいことから好まれることも間違いない。
本書で資料作成の基礎を学べ
本書の特徴は、読みやすさと丁寧な構成である。最近、資料作成に関するベストセラーがあるが実は一般的ではない。プレゼン資料などは、見た目を良くしようとPPTのスライド作成にもっとも時間をかける傾向にある。
本来は、伝えるべき内容を精査することが必要だが、ドキュメントの見映えに腐心してしまうのである。
ドキュメントの美しさを考える暇があるなら、「A4一枚」で伝えるスキルを高めるほうがはるかに有益である。
筆者がシンクタンクに勤務していたころ、ドキュメントが数百枚あっても、エグゼクティブサマリーは「A4一枚」でまとめることが必須とされていた。センスのない人は、絶対に「A4一枚」でまとめることができない。
なお、本日(8月7日)に、Schooというネット講座で「A4一枚から始める『高速』資料作成術」が放送される。稲葉さんが講師をされるそうなので関心のある方は視聴されたし。
稲葉さんは中銀カプセルタワービル(黒川紀章が設計。世界で初めて実用化されたカプセル型集合住宅。画像参照)にオフィスを構えている。ぜひ、近いうちに伺いたいものである。
[本書の評価]★★★★(83点)
【評価のレべリング】※標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
星無し 「レベル0!読むに値しない本」50点未満
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※14冊目の著書『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を出版しました。