夏休みに読みたい、社会問題を学ぶきっかけをくれる漫画5選

駒崎 弘樹

長い夏休みは、普段なかなか読めない本や漫画を読むには絶好の機会です。

社会事業に携わるNPO経営者である私がお勧めする、「社会問題を学ぶきっかけをくれる漫画」をご紹介したいと思います。

【さよならミニスカート】

その日、彼女は「女の子」をやめたーーー。
女子で唯一、スラックスで通学する仁那が抱える秘密とは。
衝撃のドラマが幕を開ける。

この作品の凄いのは、我々を縛り付ける「女らしさ」「男ということ」というジェンダーの問題に真正面から切り込んでいること。

周囲に押し付けられる「(女の子の)可愛さ」や、それによって窒息しそうになる女の子。翻ってその「可愛さ」を利用し、最適化することで自尊心を得ようとする女の子。また自分が「男である」というだけで女の子を怯えさせる要素を帯びてしまっていることに、痛みを覚えながらも、信じてもらえるよう、もがく男の子。

こうした少年少女たちのありようを追いかけていく中で、読み手は気づきます。この物語と我々は、繋がっている、と。

主人公たちが苦しんでいる、この見えない鎖を作っているのは、実は我々一人一人なのでは無いか。そして我々一人一人もまた、この自分で作っている鎖に苦しめられているのでは無いか。

そんな気づきを与えてくれる、ものすごい作品です。

同時に一つの作品としても、恋ありサスペンスありで楽しめていて、エンタメとしても見事に成立しています。

【かぞくを編む】

さまざまな事情で産みの親による養育が困難な子どもを、新たな温かい家庭に迎え入れる特別養子縁組。

民間養子縁組あっせん機関「ひだまりの子」のケースワーカーとして働く主人公・ひよりの元には、予期せぬ妊娠や不妊に悩む人々が訪れる。

家族にとって一番大切なのは心の繋がりだと信じ、親と子に寄り添うひより。

複雑な時代だからこそ読んでほしい、新しい「かぞく」の形を描いた感動作!

弊会フローレンスも、本作で舞台となる民間養子縁組あっせん機関なのでプロ目線で読みましたが、養子縁組実務がよく書けていると思います。

これを読むことで、養子を迎えるということ。実親がどんな気持ちで子どもを託すのか、ということの理解にすごく繋がるのではないか、と思いました。

ただ、養子縁組あっせんという仕事は、本作に描かれている以上にシビアで辛い状況(実親の貧困・性犯罪被害・精神疾患等)もあって、心を持っていかれそうになることもしばしばです。

ですが、その分、幸せな縁組ができると、本当に充実感と感動があって、ものすごく感情の振れ幅が大きな仕事でもあります。

その辺りの、社会構造に押しつぶされるような、つらい実際もどのように描かれていくか、に期待したいと思います。

まだ2巻しか出ていないので、一気に追いつけます。

【ちいさいひと 青葉児童相談所物語】

増え続ける児童虐待。

すべての子どもたちの幸せのため、駆け出し児童福祉司の相川健太は今日も奮闘する!

サンデーでのシリーズ連載開始以来、大きな反響を呼んだ真剣ドラマシリーズが、ついに単行本化!!

その命を救うため、その笑顔を取り戻すため、日々戦う大人たちがここにいる!

昨今ニュースで話題の児童相談所を描く作品。続編の「新ちいさな人」では児童養護施設内虐待など、これまでタブーとされてきたテーマにも切り込んでいます。

虐待死の事件が起きるたびに槍玉にあがる児童相談所ですが、その仕事について詳しく知っている人は、そう多く無いのでは無いでしょうか。

まずはこの作品から児童相談所の仕事。社会的養護が必要な子ども達の現実を知って頂くことから始めてもらえたら。

また、この作品を読むと、なぜ里親の仕事は大変で、けれどいかに子どもにとって重要か、が分かりますし、どうして子どもが虐待されているのに親が好きで、親を庇うのか、も分かります。一時保護所や児童養護施設がどう言った場所なのか、もイメージが湧きやすくなるでしょう。

このように、内容が濃く非常に学びに繋がる、ということだけでなく、作品としても本当によくできていて、毎号号泣させられます。

【神様の背中~貧困の中の子どもたち~】

小学校の教員として12年ぶりに現場復帰した仁藤涼子は、担任しているクラスの子どもたちが多くの問題を抱えていることに驚きを隠せない。

また、一方で涼子の家庭にも絶望的な問題が出てきて…。

子どもたちのSOSにあなたは気づいていますか?

DVがなぜ被害者に精神疾患をもたらし、精神疾患が失業をもたらし、それが子どもの貧困につながっていくか、この作品を読むと否応にも理解できます。

日本はDV被害者側が、生活の全てを置き去りにして、子どもを連れて逃げなくてはいけない国です。

海外であれば、加害者側が捕まり、隔離されるのに。

こうした「あり得なさ」を漫画を通して追体験できるのは、とても重要です。

さらには、健康で専門性のある主人公がDVによって壊されてしまった時に、生活保護というセーフティネットがどれだけ大切なのか、もよく分かります。

おそらくは現場取材をとてもしっかりされたのでしょう。ひとり親やDV被害のある種の「典型」がしっかり描かれていて、多くの人に読んでもらいたい内容になっています。

【健康で文化的な最低限度の生活】

新卒公務員の義経えみるが配属されたのは福祉事務所。

えみるはここでケースワーカーという生活保護に関わる仕事に就くことになったのだが、そこで生活に困窮した人々の暮らしを目の当たりにして――

新聞メディアはもちろん、現職のケースワーカー、医療、福祉関係者の方も注目する本格派ドラマ!

[生活保護]に向き合う新米ケースワーカーたちの奮闘劇、開幕!

「神様の背中」は生活保護の受給者側の立場を追体験できますが、こちらは支給者側の役所からの視点も見ることができます。

ネットでは生活保護バッシングが盛んで、すぐに不正受給ネタで盛り上がりますが、そうした馬鹿げたネタをうっかり信じすぎないように、この作品を読んでおくと良いと思います。

ある意味、デマに騙されないための「ワクチン」として我々を守ってくれる作品だと言っても良いでしょう。本当に勉強になります。

特に新刊の7巻・8巻は虐待リスクのある家庭において、どのように公的支援がワークするのか、を非常に分かりやすく、かつ感動とともに学べる内容になっていると思うので、児童虐待防止に興味のある方は必見です。

重たいテーマですが、しっかりと希望も提示してくれるので、前向きになれるところもこの作品の持つ力だと思います。

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漫画は簡単に我々を、「ここでは無いどこか」に連れて行ってくれる魔法の道具です。

そしてそれがゆえに、我々に我々の知らなかった「どこかで困っている他者」の境遇に自らを重ね、共感と理解を育んでくれる道具にもなり得ます。

この夏、あなたに素晴らしい作品との出会いがあらんことを。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年8月15日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。