アルゼンチンで石油、天然ガスなど自然資源が豊富に埋蔵されている地域バカ・ムエルタ(Vaca Muerta)は4つの州に跨っている。その面積は3万平方キロメートルで、ヨーロッパのオーストリアにほぼ匹敵する面積だ。4州のひとつネウケン州に米国は人道支援センターの建設を本格化した。
この建設には色々な謎が含まれている。先ず、①人道支援センターという定義があいまい。②その建設資金130万ドル(1億4300万円)は米国のフロリダに本部を置く南方軍が提供することになっている。③アルゼンチン政府の事前の了解を得ることなく、ネウケン州政府が米国と合意の上での建設となった。④そこから中国の宇宙探索研究センターまで車で3時間の距離にある。(参照:urgente24.com)
この人道支援センターの建設プランは2011年に生まれた。2012年に建設する予定になってその準備に取り掛かっていた。ところが、2013年にこれは米軍の基地にするものだとして市民が抗議してこの建設計画は中断。
しかし、この計画が完全に中断されたのではなく、マクリ大統領の政権下では米国との関係は円滑になっていることから昨年も米国からエンジニアが現地に派遣されて建設の為の準備が進められていた。
今年5月にはアルゼンチン政府の事前の了解を得ることなく、ネウケン州政府と米国との間で建設の為の最終の合意が交わされたのであった。これには双方がこれ以上建設の遂行を遅らせることは不都合だと判断したようである。というのは、このプランに当初から一応の了解を出しているマクリ大統領が今年10月の大統領選挙でアルベルト・フェルナンデス大統領候補とクリスチーナ・フェルナンデス副大統領候補のコンビの前に敗退する恐れがあるからである。
クリスチーナ・フェルナンデスとは前大統領のことで、彼女はベネズエラのチャベス前大統領の反米主義に共鳴し、ネウケン州に中国の宇宙探索研究センターの建設を了解したのは彼女であった。それ故に、仮にこの両フェルナンデスのコンビが今年12月から政権を担うようになると、米国にとって都合が良くないのである。寧ろ、新政府によってこの計画が反故にされる可能性さえある。そこで急遽、米国はネウケン州と合意して建設を本格化させる方向にもっていったようである。
昨年11月に着任した米南方軍のクレイグ・フォーラー司令官は米国上院委員会で南方軍の目的ということに関して、アルゼンチンにおける中国の宇宙探索研究センターはアルゼンチンと中国との間の合意内容に違犯した活動を行っている形跡があることを指摘したという。更に同氏は、そこから米国や連合国の動きをモニター追跡できることも表明した。
(参照:iprofesional.com)
そこで米国は中国の宇宙探索研究センターの活動を牽制する意味で、その近くに米国の基地を設置する必要性があるとしたようである。しかし、表向きは米軍基地とすることはできないので、バカ・ムエルタに進出している米国企業を保護するのが目的で、また同時に自然災害などが発生した場合に地元の市民への救援も使命のひとつだとしている。
これは米国が中国のアフリカへの進出を牽制する意味でアメリカアフリカ軍が唱えている主旨に類似している。即ち、軍事面からアフリカに進出している米国企業をテロ活動から守り、また地元の軍隊の養成にも協力するといった主旨である。同じようなことを米南方軍がラテンアメリカで米国の利益を守るということなのである。
人道支援センターの建設には民間企業を入札で募り、地元の労働者を雇用するとしている。この点は中国が宇宙探索研究センターの建設の折には僅かに地元の住民が基礎工事の際に雇用されただけで、後は中国人によってすべての建設が実行されたというのとは違いがある。
人道支援センターには昨年中旬に明らかにされたように、600平米の建物に会議室、キッチン、緊急事態保存部屋などを設け、500人が宿泊できる部屋も備えるとしている。即ち、米兵500人が宿泊できるという意味にもなる。またヘリコプターの離着陸場も用意される。(参照:clarin.com:iprofesional.com:argentinatoday.org)
バカ・ムエルタに埋蔵されている石油や天然ガスを確保することは自然資源の確保では常に優位な位置を保つのを主義にしている米国にとって非常に重要である。その意味でも米国からその開発と採掘に出資しているシェブロンやエクソンモービルなどを保護することは米国軍部の使命のひとつなのである。と同時に中国を牽制するという一石二鳥のプランなのである。
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家