トランプ、天安門に言及:米国・香港・台湾の中国包囲網、どうする日本!

高橋 克己

19日の香港紙南華早報(South China Morning Post)は、トランプ大統領がこの日曜日にニュージャージー州で、香港の民主化デモを天安門広場スタイルで弾圧すれば、米中の貿易協定を害するだろうと中国に警告したことを報じた。

Gage Skidmore / flickr

トランプの記者団に対する発言の引用部分は次のようだ。(邦文は拙訳)

I think it’d be very hard to deal if they do violence, I mean, if it’s another Tiananmen Square, I think it’s a very hard thing to do if there’s violence.(もし彼らが暴力を振るうならば、つまりそれがもう一つの天安門広場であるなら、交渉することが非常に難しくなると思う。暴力がある場合、それは非常に難しいと思う。)

南華早報は香港の英字日刊紙。2015年にアリババに買収され傘下に入ったので、中国の意を酌んだ報道姿勢であるに違いない。次のように記事の中で、天安門の犠牲者を「数千人ではないにしろ数百人」としていることからもそれが窺える。が、引用したからにはトランプの発言内容は誤魔化せまい。

China’s 1989 crackdown in Beijing’s Tiananmen Square saw tanks sent in to end student-led protests, resulting in hundreds if not thousands of deaths. (北京天安門広場における中国の1989年の弾圧では、戦車が学生主導の抗議行動に送り込まれ、数千人ではないにしろ数百人の死者を出した。)

またトランプは台湾へのF16戦闘機売却を承認して、16日に議会に通知した。総額は約80億米ドル(約8500億円)で、台湾関係法を制定した直後の1992年以来の戦闘機売却だそうだ。7月のエイブラムス戦車や携帯式地対空ミサイルなど約22億米ドル(約2300億円)と合わせ売却額は1兆円を超えた。

トランプは先日もツイートで香港を人道的に取り扱うよう習近平に釘を刺したが、これら一連のことは、トランプが遠くには来年の大統領選を、近くには近々再開が予定される米中貿易交渉を念頭に、香港と台湾を人権問題のカードに使って、中国をこれでもかと牽制しているに相違ない。

doctorho/flickr(編集部)

一方の中国は深圳に軍の車両を待機させ訓練の様子を動画で流すなど、香港市民の威嚇に懸命だ。が、この日曜日には雨中傘を手にした数万人の市民が極めて整然と歩いた。若者の親らに加え、いよいよ学生の教師たちまでもが立ち上った。年齢や職業を超えたまさに「本物の市民デモ」の様相だ。

台湾も、中国の報道官が香港に干渉する黒幕だと民進党を非難したのに対し、蔡総統が14日に「情勢悪化の責任を外部の介入に押し付けるのはやめよ」と述べ、「誤った判断により、歴史に無残な結果を残してはいけない」と中国軍の介入を牽制、保護を求める香港市民の人道的な個別支援も表明した。

ところで中国は7月24日、4年ぶりに2019年版国防白書を発表した。信頼に足る中国専門家の小原凡司氏に依れば、「米国との直接対決を避け、国際世論工作を主とする外交戦を展開するという中国の意図を反映したもの」だが、「それでも中国が国防白書で明確に米国を非難するのは初めて」とのことだ。

当然、「台湾の統一を果たして初めて中国の領土統一が完成すると認識している」中国のことだから、「台独(台湾独立)に反対し抑制し、チベット独立および東トルキスタン等の分裂勢力を打撃し、国家の主権、統一、領土の完全性と安全を防衛する」と書いてある。

だが、小原氏は「台湾問題については打撃という表現を用いず、『反対し抑制し』という表現に抑えられている一方、米国に配慮する必要がないと中国が考える国内の独立運動などに対しては強い姿勢を示す」のは、「中国が攻撃的であるという印象を与えるのを避けたかったから」と分析している。

中国がこの時期、即ち米中貿易戦争が熾烈で、香港のデモの出口も見えないタイミングに白書を公表した背景に就いて、小原氏は「中国共産党内で、米国に対抗するという、ある程度のコンセンサスがとれたのではないか」と分析する。もっとも香港がここまでの騒ぎになるとは中国も予想外だったろう。

そして「同白書が述べるのは、米国と中国の対立ではない。中国は、国際社会と米国との対立という構図を描こうとしている。その構図を国際情勢認識に明確に示す一方で、中国は国際社会のために大国としての責任を果たすと主張している」とのことだ。中国プロパガンダ戦略、面目躍如ではないか。

小原氏は「同白書で明らかにされた中国の対米姿勢は、日本周辺および西太平洋地域全般における安全保障環境に変化をもたらす可能性がある」と論考を結んでいる。そこで日本のことになる。

宮内庁サイト:編集部

10月には新天皇の即位を国内外の賓客に披露する祝宴「饗宴の儀」がある。昨年秋に政府は招待者の人数を前回より約800人少ない2,600人程度とし、回数も7回から4回に減らすことを決定した。両陛下の負担軽減と時代にあわせた簡素化が狙いとされる。そこで招待者の話だが…

何でもかんでも政治利用する文在寅を呼ばないことは、文議長の「天皇謝罪」要求の件の落とし前すらついていないので当然として、もしも習近平が香港デモの暴力的鎮圧に出るようなら、これも招待してはなるまい。まして来年に予定される習近平の国賓としての来日などとんでもないことだ。

30年前の天安門事件で中国は世界から非難の大合唱を受け、ソ連の二の舞になる寸前だった。しかし、海部首相は世界に先駆けて訪中し、92年には天皇陛下が中国を訪問した。時の政権は訪韓中に慰安婦問題で8回も謝罪した宮沢内閣だ。中国の国際復帰を助けた出来事だが、二度とこの轍を踏むことは許されない。

勿論、そんなことは政府が正式に声明する必要はないし、してはならない。官房長官が記者会見で質問されても「仮定の質問には答えられない」といえば良い。その代わりに、言っていながら言っていないように表現するのが上手く、「泥被り」に慣れている萩生田幹事長代行あたりがそれとなく仄めかせば良い。

今回、戦後初めて韓国に対して強く出たように、中国に対してもせめてそれくらいの警告は発して欲しい。きっと世界はそれを支持するだろう。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。