GSOMIA破棄:コケにされたアメリカは、韓国にお仕置きを!

高橋 克己

24日の朝鮮日報に筆者は、「ここまでやるか青瓦台!」と開いた口が塞がらなかった。8時20分の「米“文在寅政権、GSOMIAうそ”」と8時59分の「“米が理解した”と言っていた青瓦台、翌日“米と疎通した”と言い直す」との2件の記事を読んだからだ。

韓国大統領府Facebookより:編集部

日韓GSOMIA破棄の発表は、その日の午前中にスティーブン・ビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表が金鉉宗国家安保室第2次長と協議した22日の午後だった。ビーガン氏の前に訪韓したジョン・ボルトン大統領補佐官(7月23~24日)もマーク・エスパー新国防長官(8月8~9日)も維持を要請していたにも拘わらずだ。

これほど米国をコケにした話はそうはあるまい。「言葉の意味は判らんが、とにかく凄い自信だ!」がキャッチフレーズだった漫画の主人公を思い出す。冗談はさて措き、日本はおろか米国をもここまで軽視して北朝鮮への忠誠を誓う青瓦台文政権を、この際米国は徹底的に仕置きすべきだ。事大主義の青瓦台にはこれが一番堪えよう。

青瓦台によるGSOMIA破棄の言及は、7月19日に河野外相が駐日韓国大使に「極めて無礼」と言い放った際、金鉉宗次長が「GSOMIA協定を通じて日本と交換する情報を客観的な観点で調べた後、これに基づいて我々の利益に合う決定を下すだろう」と述べたのが最初だったのではなかろうか。

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23日、GSOMIA破棄について説明する金鉉宗・国家安保室第2次長(KBSニュースより:編集部)

金次長はこの時、「輸出規制問題とGSOMIAが連係するということか」という記者の質問に対し、「好きに解釈すればよい」、「協定の実益を問いただす」と述べた。

22日の青瓦台の決定が「当日の国家安全保障会議常任委会議の直前まで、いくつかのケースを綿密に検討」した末になされたからには、金次長ら強硬派の主張を文大統領が了としたのだろう。

ところで、ここへきて「TISA」なるものが脚光を浴びている。23日の会見で金次長が「韓日GSOMIAの終了で、安保関連の軍事情報交流が不足すると懸念されるかもしれない」、「これに対しては、2014年12月に締結された韓米日3国間の情報共有に関する取り決め(*TISA)を通じて、米国を媒介とした3国間の情報共有チャンネルを積極的に活用していくだろう」と述べたからだ。

23日のハンギョレはTISAについて、2013年2月の3回目の核実験で北の核脅威が現実化し、情報共有を目的に日米韓3国が14年12月末に締結したというのが当局の説明だが、12年に市民の反対で韓日GSOMIAの締結が失敗に終わった後、米国が窮余の策として出した代案と評価される、と文政権のことではないからか、皮肉たっぷりに書いている。

23日の聯合ニュースの解説に依れば、TISAは1987年の韓米GSOMIAと07年の日米GSOMIAにある第三者との情報共有関連条項に基づき、3ヵ国の情報共有を可能としたもので、韓国の国防部と日本の防衛省が情報共有を望む場合、提供したい情報を先に米国防総省に送らなければならないとされる。

米国防総省は送られてきたこれらの情報について、米国の秘密等級と同じ水準で該当情報に秘密等級を表示し、韓国の情報は日本に、日本の情報は韓国に伝達する。韓国と日本が共有したい情報は米国を経由しなければならない不便があり、迅速な共有が難しいという問題がTISAにはあった。

だが日韓GSOMIAの締結によって、米国が日本向け・韓国向けの情報整理をする必要がなくなり、迅速な情報共有が可能になった。その上、国家間の条約であるGSOMIAには国際法的な拘束力があり、交換する情報の守秘義務があるので、高度に機微な1級以上の情報をもやり取りできる。

他方、国防当局間の情報共有に関する取り決めであるTISAに国際法的な拘束力がない。従って相手国が1級レベルの情報を求めても、機密漏洩などの懸念があれば提供しなくても問題ない。つまり、TISAに基づいてやり取りする情報の水準は低下する可能性がある訳だ。

だとすれば金次長の発言とは裏腹に、TISAは質に於いてもスピードに於いてもGSOMIAの代わりにはならないのだ。と同時に米国を煩わせ、ひいては日米韓の対北及び対中国の守りを弱体化させるものだ。しかも国家間の条約でない防衛当局間の取り決めで法的拘束力もない。

であるなら今回のGSOMIA破棄は、韓国自ら「ボク、国際法を守るの苦手だモン!」と白状したも同然の所業であると筆者は思う。日本マスコミは「国際法を遵守する自信がないから韓国はGSOMIAを破棄した」と挙って書くべきではないか。

そして「青瓦台のついたウソ」の話になる。さすがに金次長は23日の会見で記者から相次いだ「米国が理解したのか」という質問に「回答は避け、事前協議の事実だけを強調した」。が、23日の中央日報は外交部の高位当局者が「なぜGSOMIAを再考せざるをえない状況なのか米国も十分に理解していると考えている」と述べたことを報じた。

ところが冒頭の8時20分のワシントンからの朝鮮日報の記事は次のように書いている。

トランプ政権の高官は…青瓦台がGSOMIA破棄について「米国が理解を示した」と説明したことに関して、本紙に「うそ(lie)」だとして、「明確に言って事実ではない。ここ(駐米韓国大使館)とソウルの(韓国)外交部に抗議した」と語った。記者の質問に答えたものだが、「うそ」という表現を使ったのも極めてまれなことだ。

そしてその39分後の冒頭の記事は以下のようだ。

青瓦台は23日、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)終了決定前に米国と協議し、コミュニケーションを取ったとした。前日は「米国に理解を求め、米国は理解した」と言っていた。だが米国政府消息筋はこの日、「韓国政府は一度も米国の理解を得たことはない」と発言した。これにより「青瓦台のうそ」論争が大きくなったことを受け、後になって言葉を変えたのだ。

怒らせたら怖いゾ…(Gage Skidmore / flickr)

今回の韓国による日韓GSOMIA破棄に関して、筆者は安全保障面もさることながら、韓国の履き違えに依る日本への報復と再三の米国の要請に対し「うそ」を以て応えたという点で、日本と米国の韓国に対する信頼を奈落の底まで落としてしまったと思う。

だからこそポンペオ国務長官も「失望した」との極めて強い言葉を使った。それにも拘らず青瓦台は「うそ」をついた上、「共に民主党」のスポークスマンは23日次のように述べた。

米国政府が遠回しに遺憾を表明しているその実際の内容は、これまでの日本の傲慢な態度を併せての表現、一部メディアや野党は、あたかも韓米同盟と韓米日安全保障協力体系が崩壊するかのように不安をあおっている。

これには韓国の外交関係者の間からも、米国の強い懸念の表明を「我田引水」の形で解釈したという批判の声が上がった(朝鮮日報)ようだが、ここまで韓国にコケにされた米国には、この際グウの音も出ないほどきつく韓国を仕置きしてもらいたい。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。