極右派と環境保護活動家の「共通点」

このコラム欄で「人は希望より不安によって動かされる」という趣旨の記事を書いた。欧州では2015年秋、100万人を超える難民が中東・北アフリカから殺到し、その対応で欧州諸国は混乱を呈した。難民が主にイスラム教徒だったこともあって、カルチャーショック状況となる一方、イスラム過激派テロ事件への恐怖が高まっていった。

国連の気候変動抑制に関する多国間の国際協定(通称パリ協定)=2015年12月、公式文書の第1頁目

難民の殺到で生じてきたイスラム・フォビアや外国人排斥運動は極右過激派を台頭させ、選挙では欧州各地でその勢力を伸ばしていった。原動力は“自国ファースト”であり、それを支える民族主義だ。

一方、昨年ごろから地球温暖化対策が大きな政治課題に再浮上してきた。その直接の契機は、スウェーデンの16歳の高校生グレタ・トゥ―ンベリさんが学業を置いて地球温暖化対策を呼び掛ける運動を開始したことだ。

グレタさんは昨年8月、スウェーデン議会前で地球温暖化問題、気候変動対策のための学校ストライキを行い一躍有名となり、同年12月の第24回気候変動枠組み条約締結国会議に出席。欧米ではグレタさんの活動に刺激を受けた学生や生徒たちが毎週金曜日、地球温暖化対策デモ集会(フライデー・フォー・フューチャー)を開き、それをメディアが大々的に報道すると、運動の中心であるグレタさんは、「ノーベル平和賞候補に」という声すら飛び出してきた。

グレタさんは1年間、学校を休学して地球温暖化対策をアピールする活動に専念。ニューヨークで来月開催される国連の気候変動サミットに参加するためCO2の排出が多い飛行機ではなく、CO2排出量のないヨットを利用してNY入りすると伝わると、これまた世界のメディアが大きく報道した。

環境保護活動家グレタ・トゥ―ンベリさん(Facebookより:編集部)

地球温暖化はリアルなテーマだ。環境保護活動に懐疑的な知識人、政治家もその点ではほぼコンセンサスがある。ドイツの世論調査によると、同国では環境問題を最大の課題としてきた「同盟90/緑の党」が同国の2大政党「キリスト教民主同盟」(CDU)と「社会民主党」(SPD)を凌いで第1党に躍り出る勢いを見せてきた。多くの人々が環境対策の重要さを急務と考えだしてきた証拠だ。

マクロン仏大統領は22日、先進7カ国首脳会議(G7)開催前の記者会見で、「私たちのハウスは燃えている」というドラマチックな表現で南米ブラジルの熱帯林の大火災について懸念を表明している。「地球の肺」といわれる熱帯林の火災は国際問題だというわけだ。

しかし、ここにきて「グレタさんは家族と一部の環境保護活動家に利用されているだけだ」という声が欧州の主要メディアで報道されてきた。NYへヨットでいくというアイデアは資産家や環境保護活動家から出たもので、ヨットを戻すために2人の人間が飛行機でNYに行き、待機しているという話が明らかになると、批判の声は一層高まっていった。

オーストリア代表紙プレッセの著名なジャーナリスト、カール・ペーター・シュヴァルツ氏は「グレタさん騒動はいつまで続くか」(8月22日)というタイトルでコラムを書いている。

同氏は、「地球温暖化は人間の活動の結果だけではない。地球、天文学的な次元の要因も考えられる。このままでは地球が滅んでしまうといった終末論的な脅しは逆効果だ。グレタさん周囲の関係者は、若い世代に、『今やらないと世界は終わりだ』といった終末論を展開している。一種の環境宗教団体だ」と言い切っている。ちなみに、グレタさんは集会では「I want you to Panic」と語ることを忘れない。

興味深い点は、難民問題で欧州人の「不安」を煽ってきた極右派からグレタさん批判の声が聞かれることだ。グレタさんの母国、スウェーデンでは右翼ポピュリストの「スウェーデン民主党」(SD)のジミー・オケーソン党首は、「グレタさんは環境問題運動をする団体の広告塔だ」と単刀直入に批判している(「極右派の『グレタさん批判』高まる」2019年5月4日参考)。

極右派の主張とグレタさんの活動を同列視できないが、両者の活動には人間の原始的な感情「不安」が関与している点で酷似している。難民殺到、異文化への恐れ、「不安」を煽る極右派活動と、地球の温暖化の深刻さをアピールし、近未来への「不安」を喚起させる環境保護運動は案外似ているのだ。両者は一種のライバル関係だ。グレタさん批判が極右過激派から飛び出したのも決して偶然ではないわけだ。

グリーランドの氷が今、40年前の6倍のスピードで融け出している、というニュースが流れてきた。米国科学アカデミーの機関紙に掲載された報告だ。それによると、グリーンランドの融けた氷は1972年以降、地球の海面を0・5インチ(約1.3センチ)以上、上昇させたという。注意すべきことは、上昇分の半分は過去8年間で起きたという点だ。

欧州ではこの夏、40度を超える灼熱の日々が続いた。10年前には考えられなかったことだ。洪水など異常気象、ブラジルの熱帯林の大火事、等々のニュースは地球を取り巻く環境が大きく変わってきたことを知らせている。その意味で、グレタさんの活動は大切だ。ただし、今回のNYへのヨット渡米など過剰なPR活動、それを報じるメディアのバブル報道は、グレタさんらの活動を単なる一過性のメディア・イベントに終わらせてしまう危険性が出てくる。地球温暖化対策には冷静な調査、啓蒙活動が重要だ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月25日の記事に一部加筆。