両国にとってメリット、日米貿易交渉大筋合意

岡本 裕明

日米貿易交渉はワシントンで開催されていた閣僚レベル交渉で大筋合意し、それを受けてG7が開催されたフランスで会談した安倍首相とトランプ大統領がにこやかに握手をしました。安倍首相の笑顔が印象的でした。国内では譲歩し過ぎたのでは、という声も出るかもしれませんが、私は総合的に考えてこの決着でよかったと思っています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

もともと日米貿易交渉なるものが出た背景はアメリカの対日貿易赤字が中国、メキシコ、ドイツに次ぐ4番目で18年が676億ドルになっていたことに対する不満であります。トランプ大統領としてはこれを解消するために各々、個別交渉を進めてきています。その中で日本についてはもともとTPPとして交渉が進んでいたもののトランプ大統領の一流の嗅覚で多国間交渉には利がないと思ったのか、その枠組みから離脱します。そこで日本が中心となって残った11カ国でCPTPP(いわゆるTPP11)を締結、発効させました。

これにより一部農産物についてアメリカ産とTPP11加盟国の間に大幅な関税差が生じてしまっていました。その点からすると今回の日米貿易交渉はTPPを脱退したアメリカがTPPが発効されたものと同等のプレビレッジを二国間交渉として締結するというものでありました。

今回、日本側にフォローの風が吹いたとすればそれは米中通商交渉のバトルで中国側が農産物を買わないなど厳しい報復策を打ち出したことでアメリカの農家が農産物を売るところが足りない、という事態となっていた点でしょう。

これはトランプ大統領にとって2020年の選挙対策としては非常にまずいわけで農家をトランプ大統領側に引き付けておくにはどうしてもその代替案が必要でありました。日本の交渉団は当然ながらそのあたりは読み込んでいたはずですし、想像するに双方の交渉団に阿吽の呼吸に近い流れが出来つつあったのではないかと察します。これが比較的スムーズに進んだ背景かと思います。

では日本は自動車関税など譲歩し過ぎたのではないか、という点ですが、それは否定はしませんが、日本にとって致命的とも思えません。日米関係をどの切り口で見るのか、それとも大局的で総合的な判断をするのか、という点に立てば今はアメリカとの蜜月を重視すべきタイミングはないと考えています。

その直接的案件は対朝鮮半島対策になってくると思います。トランプ大統領は日米韓という括りが上手くいってくれればそれに越したことはないと思っていますが、厳しい日韓の事情を鑑みれば今、無理して何かしても効果はないとみている節があります。トランプ大統領が両国間の仲裁、という話もありましたが今回、安倍首相がそれをトランプ大統領に依頼したとも思えません。個人的には放置プレーが続くのかと思っています。

朝鮮半島問題に対面していくにはアメリカとの連携は不可欠であります。それを考えれば全く畑の違う通商問題で多少妥協をしたとしても全体のバランスからすれば日本には大きな利益となるのではないでしょうか?

また、株式市場を含め、疑心暗鬼になっているのは積み上がる不安材料でありました。日米貿易交渉も当然その一つであったわけです。これがクリアになりそうだ、というのは日本経済にとっても霧が少し晴れるニュースになるとみています。

今回の日米貿易交渉が大筋合意したことは木を見るか、森を見るか、という見地に立って考えれば私はウィンウィンになるのではないかと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年8月26日の記事より転載させていただきました。