防衛予算の不透明化が続いています。
ですがあいも変わらず、多くの記者クラブメディアは5兆3223億円の概算要求額だけを取り上げています。
以下はその典型例の福井新聞の社説です。
防衛省が発表した概算要求の金額だけを対象にしています。
ところが本年度概算要求から米軍関連費用は「事項要求」とされ、金額が示されていません。この金額が昨年度実績だと約1700億円です。先日の防衛省のレクチャーでこの件を正したのですが、要素が複雑で計上できないという話でした。一昨年度までは概算に出ていた数字がなぜ出せないのか不思議ですし、「事項要求」は本予算になるまで間、防衛省と財務省の「密室」の中で決められることになります。これは文民統制上からも大きな問題です。
補正予算も問題です。近年は来年度予算と本年度の補正予算の一体化です。
昨年度の補正予算は第一こそ本来の補正予算の趣旨である、予算編成時に予期できなかった支出への対処でした。
一時補正予算は概ね本来の意味の補正予算ですが、2次補正予算3600億円中、燃料費高騰に対す手当300億円ほど以外の3300億円はいわゆる「お買い物予算」であり「第二の防衛予算」です。
仮に本予算の装備調達費を8千億円とすると約1.4倍にもなります。しかもその上、それでも足りずに国内メーカーに支払い繰り延べを依頼しています。
財政規律があったものではありません。
この問題はやっと本年東京新聞が特集「税を追う」で取り上げました。
これらの数字を加味すれば実質的な概算要求額は5兆3223億円ではなく、実に5兆8000億円程度、あるいはそれ以上になるでしょう。
つまりは6兆円にも迫るでしょう。
この「軍拡」を新聞テレビなどの記者クラブメディアは殆どこのからくりを解説せずに、防衛省の発表した概算要求の金額だけを「防衛予算」として報道し、これを基準に論評を書いています。これは世論をミスリードすることになります。
それでいて「軍拡反対」とかいっているわけですから、一昨日きやがれ、みたいな話です。
実際は5.8兆円の予算を、5.3兆円として「審議」するわけです。無論政府予算案になる段階で「事項要求」は金額が入るわけですが、半年以上基準となる数字が公にされないのでは国会軽視といってもいいでしょう。
財務省は補正の第2予算化については、中期防全体の金額に収まればいいというような考え方のようです。これは行政的にはありなのでしょうが、本来予算を決定するのは国会の仕事です。これまた国会軽視です。
いつも申し上げておりますが、人事と予算は文民統制の肝です。予算を国会が十分に審議もしないのに文民統制が効いているといえるのでしょうか。
■本日の市ヶ谷噂■
陸自機甲科では10式の評価は思いの外低い。一因は転輪減らしたために機動力に問題があり。90式の方が遥かにマトモという意見が強い。またロシア陸軍の分析も同様であり、陸自の主力MBTは90式であるとの認識との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。