今回は長らく議論を追ってきた「再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会」の中間整理(第三次)の内容について外観する。報告書の流れに沿って
①総論
②主力電源化に向けた2つの電源モデル
③既認定案件の適正な導入と国民負担の抑制
④廃棄費用の確保
⑤適正な事業規律(*特に低圧案件について)
⑥適切な出力制御の在り方
⑦法アセス対象の太陽光発電の運転開始期限
⑧ 再エネ電源に対する発電側基本料金の課金の在り方
という項目別に内容を簡単にまとめるとともに、誤解をさけるために中間整理の文言をそのまま引用することとしたため、やや冗長になり読みにくくなったところがあるがご容赦いただきたい。では本論に入る。
①総論
総論部分においては改めて「再生可能エネルギーの性質」について
・重要な低炭素の国産エネルギー源であること、
・レジリエンス向上―地域活性化にも資するエネルギー源であること、
が強調された。
<以下引用>
(再生可能エネルギーの性質)
・再生可能エネルギーは、発電時に温室効果ガスを排出せず、国内で生産できる〜重要な低炭素の国産エネルギー源である。・また、分散型エネルギーシステムの拡大によるエネルギー需給構造の柔軟性向上や、災害時・緊急時における近隣地域のレジリエンス向上、地域活性化にも資するエネルギー源でもある。
②主力電源化に向けた2つの電源モデル
再エネの主力電源化に向けての長期的な方向性として
・「競争電源」(メガソーラー、風力発電)は補助を縮小しなるべく早く電力市場への統合を目指す、
・「地域活用電源」(住宅/小規模事業用太陽光、小規模地熱、小水力、バイオマス)に関しては当面はFITを維持しつつ需給一体モデルを開発していく、
という二つの方向性が示された。
<以下引用>
電源① 競争力ある電源への成長が見込まれる電源(競争電源)
技術革新等を通じて、発電コストが着実に低減している電源、又は発電コストが低廉な電源として活用し得る電源(例:大規模事業用太陽光発電、風力発電)については、今後、更にコスト競争力を高め、FIT制度からの自立化が見込める電源(競争電源)として、現行制度の下での入札を通じてコストダウンの加速化を図るとともに、再生可能エネルギーが電力市場の中で競争力のある電源となることを促す制度を整備し、電源ごとの案件の形成状況を見ながら、電力市場への統合を図っていくことが適切である。具体的には、
・再エネ発電事業者自らが電力市場を通じて電気を販売し、
・他の発電事業者と同様に、インバランスの調整や市場の電力価格、系統負荷等を意識した投資・発電を促しつつ、
・引き続き投資回収についての一定の予見性を確保できる仕組みを目指し、
そのための補助の水準を順次縮小していくことにより、国民負担の抑制を図っていくことが適切である。
電源② 地域において活用され得る電源(地域活用電源)
需要地に近接して柔軟に設置できる電源(例:住宅用太陽光発電、小規模事業用太陽光発電)や地域に賦存するエネルギー資源を活用できる電源(例:小規模地熱発電、小水力発電、バイオマス発電)については、災害時のレジリエンス強化等にも資するよう、需給一体型モデルの中で活用していくことが期待され、その活用により資源・エネルギーの地域循環が実現するものである。このため、こうした側面を有する案件については、地域において活用され得る電源(地域活用電源)として優先的に導入を拡大しながら、コストダウンを促していくことが重要である。具体的には、
(ⅰ)自家消費(例:住宅や工場等の所内で活用する太陽光発電)や
(ⅱ)同一地域内における資源・エネルギーの循環(例:地域で集材した燃料を用いて発電し、熱電併給等を活用しながら、地域にエネルギーを供給する地域循環型のバイオマス発電)を優先的に評価する仕組みを前提に、
当面は現行のFIT制度の基本的な枠組みを維持しつつ、電力市場への統合については電源の特性に応じた検討を進めていくことが適切である。
③既認定案件の適正な導入と国民負担の抑制
未稼働案件への対応については、2018年度に導入された既認定案件(2012~2014年度認定を受けた案件=40円-36円-32円案件)を対象とした規制*を2015年度に認定を受けた案件(29円、27円案件)にも拡大し、またいわゆる運転期限付き案件についても追加的対応を進めることが示唆された。
*2018年度に40円、36円、32円案件のうち2016年7月31日までに接続契約を締結したものについて、原則として2020年3月までに運転開始しなければ価格を売電価格を21円以下に引き下げる措置が導入されている。
<以下引用>
・2015年度にFIT認定を受けたもののうち、運転開始期限が設定されていない(2016年7月31日までに接続契約を締結した)案件を対象に、
– 2020年3月31日までに運転開始準備段階に入った(送配電事業者によって系統連系工事着工申込みが不備なく受領された)ものは従来の調達価格を維持し、間に合わなかったものは運転開始準備段階に入った時点の2年前の調達価格を適用する。
– 新たに運転開始期限(原則として1年間)を設定し、早期の運転開始を担保する。(2020/4/1施行予定)
・2016年度認定案件についても、2021年4月1日を施行日として対象年度を拡大することを基本とする。
・既認定案件(*2016年8月以降に接続契約締結した案件か?)について、FITの認定及び系統容量が押さえられたまま放置されることのないよう、再生可能エネルギーの導入拡大と国民負担の抑制の観点から必要かつ適切な措置を検討する。
④廃棄費用の確保
太陽光発電設備の廃棄費用の外部積立制度については、以下の通りFIT法改正にむけて今後WGで議論が整理されることとなった。
<以下引用>
「太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループ」において、積立金の金額水準・回数・時期、積立金の取戻し要件、発電事業者が倒産した場合への対応、制度移行における既存の積立てとの整理、特定契約との関係の整理、費用負担調整機関へのガバナンス・社会コスト、内部積立てに関する論点などについて、専門的視点から具体的な検討を進め、早期の結論を目指しつつ、法令上の措置が必要な場合には、FIT法の抜本見直しの中で具体化することを、引き続き検討していく。 」
⑤適正な事業規律
小規模太陽光の事業規律のあり方については、「新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ」で議論が進められており、2019年度内に斜面設置にかかる技術基準の改正がされる見込みである。また低圧以下の設備に関する安全規制のあり方そのものについて見直しの検討が進められることが示された。
<以下引用>
・太陽光発電設備の斜面設置に係る技術基準については新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループの検討を踏まえて改正を行う。
→2019年度中に改正予定
・小出力発電設備について、設備数が飛躍的に増大していることを踏まえ、安全の確保について、新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループにおいて検討を進める。
→2019年度中に検討開始
⑥適切な出力制御の在り方
出力制御のあり方についてはオンライン化対象の拡大、旧ルール500kW以下への対象拡大、経済的出力制御の実務的手法、指定電気事業者制度の見直しなどに向けて系統WGで議論が進められることとなった。指定電気事業者制度の見直しは重要な論点なので今後の議論が注目される。
<以下引用>
・オンライン化の推進に当たっては、一層の出力制御量削減に資する事業者間の公平性の在り方について系統ワーキンググループで検討する。
→2019年度中に具体化。現在指針改定案がパブリックコメント中。
・当面は出力制御の対象外とされてきた旧ルール500kW未満の太陽光・風力についても出力制御の対象としつつ、30日無補償ルールを適用する。また、30日等出力制御枠や指定電気事業者制度の見直し等、適切な出力制御の在り方について系統ワーキンググループで検討する。
・経済的出力制御の実務的手法等について系統ワーキンググループで検討する。
⑦法アセス対象の太陽光発電の運転開始期限
メガソーラーの法アセスの対象化(40MW以上必須、30~40MW未満のものはスクリーニング対象)にむけては、アセス対象のメガソーラーについては運転開始期限を通常の3年ではなく「5年」とする方針が示された。また2016年度以前の認定案件には原則として経過措置が設けられないこととなった。
<以下引用>
FIT制度における太陽光発電の運転開始期限は「認定日から3年」が標準形とされてきたが、一部の大規模な太陽光発電事業が法アセスの対象となることを踏まえ、
– 法アセス対象の太陽光発電の運転開始期限(標準形)を、「認定日から5年」とする。
– 法アセスの施行期日(2020年4月1日)より前に認定を受け、新たに法アセスの対象となる太陽光発電に対する経過措置として、2017~2019年度にFIT認定を受けたものに対して、「認定日から5年」となるよう運転開始期限を補正し、2012~2014年度にFIT認定を受けた未稼働太陽光案件の対象となるもののうち、条例による環境アセス対象外であったものに対して、条例アセス対象事業の運転開始期限と同様の措置を講じる。
→2020年4月1日施行予定
⑧ 再エネ電源に対する発電側基本料金の課金の在り方
最重要論点である発電側基本料金については導入に向けて一定の方向性が示されたものの、結論は調達価格算定委員会の議論に委ねられることとなった。
<以下引用>
・既認定案件に対する調整措置の要否の検討に当たっては、原則、制度上の利潤配慮がなされていないものについては調整措置を置くことを検討することとし、具体的な調整措置の要件や調整の程度については、例えば系統接続の初期費用負担の大きさ等も考慮要素としつつ、調達価格等算定委員会において議論を行う。
・新規認定案件については、調達価格の算定や入札の上限価格の設定における発電側基本料金の取扱いについて、調達価格等算定委員会において議論を行う。
以上検討事項が多岐に渡った本委員会だが、報告書では明確な結論が出されたものは少なく、あくまで方向性のみ示され、今後はWGや委員会で個別の論点について詳細な議論が深掘りされていくことになった。
宇佐美 典也 作家、エネルギーコンサルタント、アゴラ研究所フェロー
1981年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済産業省に入省。2012年9月に退職後は再生可能エネルギー分野や地域活性化分野のコンサルティングを展開する傍ら、執筆活動中。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)、』『逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界』 (新潮新書)など。