どこから見ても世界に遅れる日本のゲノム医療

今月号のNature Medicine誌に「Liquid versus tissue biopsy for detecting acquired resistance and tumor heterogeneity in gastrointestinal cancers」というタイトルの論文が公表されている。

結果は、以前から紹介している「リキッドバイオプシーの応用例」の枠を超えるものではないが、その実例を示した意義は大きい。大きな腫瘍を針で刺して得た組織バイオプシーサンプルで解析した時、腫瘍に多様性がある場合には、その情報を利用して選択した分子標的治療薬の効果とは、遺伝子結果が必ずしも一致しないことがあってもおかしくない。

また、実臨床で定期的にバイオプシーを行うことはリスクが大きいので、ハッキリと薬剤に対して抵抗性がわかるまで(がんが大きくなったり、新しい転移巣が出現するまで)治療薬を変更することも現実的には難しい。しかし、リキッドバイオプシーであれば、腫瘍内の多様性や腫瘍間の多様性(複数の転移巣がある場合に、それぞれの転移巣のがん細胞の性質が異なる)情報を得ることができると考えられる。

この論文では、治療の前後の腫瘍組織での遺伝子異常とリキッドバイオプシーを比較して、あるいは複数の腫瘍で起こっている遺伝子異常を比較して、リキッドバイオプシーでは腫瘍の多様性や薬剤耐性がん細胞の出現をリアルタイムで検出できることを実証した。

世の中は確実にダイナミックにゲノム医療に向けて動いているが、日本の動きはどこから見ても遅れている。もう1年早く帰国していればとの後悔も芽生えてきたが、必死で追いかけて追いつき追い越すしかない。だんだんと息切れしてきたような気もしないではないが。

そして、世界に大学ランキングが出た。トップ200には東京大学(42位、共同通信では36位となっていたが、ウエブで確認するとこの順位だった。アジア大学ランキングでは東大は8位と、中国、香港、シンガポールの大学よりランクが下である)と京都大学(65位)しか入っていない。香港やシンガポールは英語圏だと言い訳する大学人もいるが、アジアトップは中国の精華大学だった。

北京大学よりもランクが下である現実を見ないと、言い訳だけではこの状況は改善しない。海外から見て魅力がないとのことだが、日本から海外に行く人も減ったし、アジアからの留学生も減ってしまった。

この状況はボディブローのように国力の差となって反映されてくると思うのだが、もはや、私が言っても「暖簾に腕押し」「糠に釘」状態だ。自分の守備範囲のリキッドバイオプシーと免疫療法で一矢報いたい。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年9月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。