知財本部委員会、座長お役御免。

このたび知財本部の「検証・評価・企画委員会」が廃止、「構想委員会」に移行することとなりました。
引き続き委員を務めますが、座長をおります。
座長を務めて10年が過ぎ、お役御免です。

10年前「技術力と並んで日本が強みを持つ文化力(表現力)は「クールジャパン」として世界から評価されているが、産業面でその潜在力を発揮しておらず、ソフトパワーを生かし切れていない。技術力(ものづくり力)と文化力(表現力)の総合力を活かす知財戦略を構成する。」なんて書いてます。

それまでの国内重視・産業振興を、海外重視・インフラ整備に転換することが主眼でした。

1.クールジャパン対策(海外展開)と2.デジタルネット対応(基盤整備)が二大柱となりました。

それは同時に、デジタル化からスマート化へとコンテンツ政策の軸を移す戦略でもありました。
PC+ネット+コンテンツから、スマホ+クラウド+ソーシャルメディア(プラットフォーム)へ。
ぼくの10年の前半はその政策に注力しました。

2013年にはその後10年の戦略として「知財政策ビジョン」を決定しました。
同年、角川歴彦KADOKAWA会長が勧めてくださり、コンテンツ政策やソフトパワー論について知財本部で議論していることを中心にまとめた「コンテンツと国家戦略」を上梓しました。

1. クールジャパン政策は推進会議が設けられ、対外戦術を練ることになりました。

ぼくは「ポップカルチャー分科会」の議長も務めました。
提言には「みんなが『参加』して情報を発信。政府主導ではなくて、みんな。」と書き込みました。政府の会議で政府主導を否定するものでした。

2013年にクールジャパン機構が設置され、助成金J-LOPなどの措置もあり、資金面での政策ツールが充実。
海外市場はこの5年で26%拡大、映像コンテンツは5年で500事業者が新規に海外展開に取り組み、政府が支援した法人の海外売上は2000億円近く増加しています。

2011年からの5年間で、アニメは2.9倍、ゲームは3.6倍。
映画は額は小さいが2.8倍。テレビなどの放送は4.4倍。
海外の売上が伸びました。
これは大変な変化であり、政策の成果があったと評価してよいでしょう。

2. ネット対応は成功していません。

日本全体がIT対応でアメリカに敗北しました。コンテンツも同様です。
ネットワーク配信はマンガ40%、アニメ15%、音楽8%、動画4%と分野により差が大きい状況です。
そして海賊版事業者や海外のネット巨人が脅威となっています。

マンガはネット海賊版が頭の痛い状況。
アニメはネットフリックスなどが世界の市場を押さえようとしています。
ゲームもグーグルが5Gでのクラウド化を進めていて、構造変化が起きる可能性があります。
音楽は日本はCDが70%ですが、世界は既にサブスクリプションが50%近くで、構造が全く違います。

ただその間、ネット時代に対応するための著作権法の改正、デジタル教科書の制度化など、知財計画を踏まえて制度化に至ったものも多く、制度面での基盤整備は成果を上げました。

10年の後半、2015年からは、ネットやスマホの次のステージが重要テーマに。
流通は5Gとクラウドに移り、デバイス・視聴はIoTやVRなど多様な環境に。
そしてコンテンツビジネスは、AI+データ主導による広告・販売戦略が主流となる。
AI+データが中心テーマになりました。

2016年に次世代知財システム検討委員会、2017年には新情報財委員会が置かれ、それらの座長も務めました。
AI、3Dプリンティング、データベース。
そして、議論はAI知財の議論からデータに関する議論に移りました。
世界をリードする議論だったと自負します。

しかし世界は実態が先行、GAFAやBATという巨大企業と、アメリカ、EU、中国ら強国が主導権を巡りせめぎあい。
日本はG20を本問題の調整場に据えるなど努力していますが、存在感は薄い。

政策面では官民データ活用推進基本法に基づくデータ活用とオープンデータ推進。
そして、PDS(パーソナルデータストア)、情報銀行、データ取引市場の整備。
これらアジェンダはIT本部が中心に推進しているもので、知財本部がサブ的な役割です。
知財政策とIT政策の連携です。

2018年は海賊版対策が注目を集めました。
これも知財とITの融合領域。
4月、ブロッキングに対する政府方針を巡り議論が高まり、対策会議を設置、ぼくが共同座長を務めたものの、審議は紛糾。
10月15日、ブロッキング法制化はまとまらず、対策会議は無期限延期になりました。

海賊版は知財戦略(著作権)とIT戦略(通信の秘密)、いずれも憲法が保障する権利の衝突で、それらの間の調整が重要課題。
それは知財本部、総務省、文化庁など複数の官庁をまたぐ問題でもありました。
同様に、知財・コンテンツとIT・テクノロジーを巡る政策案件は増大すると予測されます。

2019年は13年版に続く第2回目の知財戦略ビジョンを策定しました。
前回はデジタルからスマートへの移行をにらんだものでしたが、今回はSociety5.0、AIとIoTを主眼に据えています。SDGs:少子高齢化、環境エネルギー等の社会問題も背景としています。
担当10年を経て、また次のステージへの進展です。

ぼくが和服になったのも、知財本部が原因です。
「クールジャパン」の議題で、コンテンツにファッション、食、観光など他ジャンルを組み合わせようという議論に。
「だけどみんな洋服じゃね?」
て言ってしまったのです。
複数の委員から「じゃアンタ和服で仕切れ」と仕切られまして。
以来10年。

しばし一委員として和服で参加します。
なお、今後、知財会合は「チャタムハウスルール」でいくとの整理が示されました。
これは会議中の発言者を特定する情報は伏せる規則。
なので、ぼくが発言者名を引いて書いていた記事は今後はできなくなるかもしれません。
となると、ぼくの知財本部メモシリーズ、おしまいです。
閉店ガラガラ
(でもこのルール適用は再検討中だそうで、今後の取扱いにご注目ください。)


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年9月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。