「毛沢東思想」を継承した習近平が狙う尖閣・沖縄

中国の対外膨張・侵略の歴史

1949年の中華人民共和国の建国以来、中国は軍事力による対外膨張・侵略を何度も繰り返してきた。1949年の中国人民解放軍による新疆ウイグル侵略、1950年のチベット侵略、1958年の台湾・金門島に対する47万発の砲撃、1962年の中印国境紛争でのインド・アクサイチン地方侵略、1979年の中越戦争でのベトナム侵略、などである。

そして、現在では、南シナ海、東シナ海で軍事力を背景として「力による現状変更」を企て、さらに、西太平洋への海洋進出を図っている。これらの一連の軍事力行使には、必ず「帝国主義者から人民を解放するため」とか「中国の核心的利益を守るため」などという「大義名分」が使われてきた。

中国の対外膨張・侵略の根源は「毛沢東思想」

このような中国の対外膨張・侵略は、マルクス・レーニン主義を中国に創造的に適用したとされる「毛沢東思想」に立脚する。「毛沢東思想」の核心は、

(1) 農民、特に貧農・下層農民主体による革命経験の絶対化。
(2) 「鉄砲から政権が生まれる」という軍事力万能主義の革命観と国家観。
(3) 中華思想の拡大再生産である強烈な中華民族主義。

である。「毛沢東思想」である上記(2)の軍事力万能主義と(3)の中華民族主義の合体が中国の対外膨張・侵略の根源である。

毛沢東思想の核心「鉄砲から政権が生まれる」

毛沢東の公式肖像画(Wikipediaより:編集部)

毛沢東は、上記(2)の軍事力万能主義に関して、「共産党員の一人一人が鉄砲から政権が生まれるという真理を理解すべきである。鉄砲からすべてのものが生まれてくる。我々を戦争万能論者だと笑う者がいるが、その通り、我々は革命戦争万能論者である。それは悪い事ではなく良い事である。世界全体を改造するためには鉄砲による以外にはない。」(注1)と言っている。

また、毛沢東は、上記(3)の中華民族主義に関して、「中華民族の数千年の歴史には民族の英雄と革命の指導者がたくさん生まれた。したがって、中華民族は光栄ある革命的伝統と優秀な歴史的遺産を受け継いだ民族でもある。」(注2)と言っている。

「毛沢東思想」を継承した習近平政権の対外膨張

「中華民族の偉大な復興」をスローガンとする現在の習近平政権は、こうした「毛沢東思想」に基づく軍事力万能主義と中華民族主義を継承し、これを国家統治、とりわけ外交や軍事戦略の基本方針としている。それは、年々急拡大する軍事力や反日教育による中華民族主義の鼓舞などにも表れている。

そのため、南シナ海のほぼ全域が中国の歴史的権利に属するとの「九段線」の主張に基づく人工島・軍事基地建設、東シナ海の尖閣諸島が中国固有の領土であり、核心的利益に属するとの主張に基づく中国公船による常態化した領海侵犯、さらには、沖縄に対しても、「琉球処分」や「沖縄返還」の国際法上の根拠に疑問を呈して、「沖縄独立」運動を支援するなど、中国の領土的野心や対外膨張主義はとどまるところを知らない。

習近平政権が狙う尖閣の実効支配と沖縄領有

中国公船による尖閣諸島に対する領海侵犯や接続水域への侵入は後を絶たず、今や日常化している。明らかに習近平政権は尖閣諸島の実効支配を狙っているのである。なぜなら、日本が実効支配(施政権)を失えば、安保条約5条により米軍は介入しないと考えているからである。5条による米軍介入は日本が施政権を保有することを前提とする。

新華社サイト、内閣官房サイトより:編集部

尖閣諸島の次は、中国と冊封関係(属国関係)にあったと主張する琉球(沖縄)がターゲットとされよう。米軍の沖縄からの全面撤退は対中抑止力が崩れ、侵攻の隙を与えることになり、極めて危険である。1949年の新疆ウイグル侵略や1950年のチベット侵略で中国が使った「帝国主義者から人民を解放するため」との「大義名分」が将来沖縄についても用いられることが強く懸念される。

日本国民は、中国の対外膨張・侵略の根底には「毛沢東思想」に基づく軍事力万能主義と自国中心の偏狭な中華民族主義が存在することを片時も忘れず、島嶼防衛にあたる自衛隊・海上保安庁の一層の充実強化と、強固な日米同盟関係による対中抑止力の強化を決して怠ってはならない。

(注1) 毛沢東著「戦争と戦略の問題」毛沢東選集2巻274頁~275頁1966年新日本出版社刊。
(注2) 前掲書378頁。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。