効果が不透明な費用の増大
おカネをやたらと食う、重いコストがのしかってくる、というニュースが連日、流れてきます。以前は、需要超過でインフレ圧力がかかりやすい「高圧経済」の時代が続きました。それに代わって最近は、「高コスト社会」の到来と呼んだほうがいいような時代になったと思います。
コストが上がっても価格をあげられない。経済成長率も世界的に低下している。ですから高コストは企業収益を圧迫し、所得が伸びない個人は出費の増加で、生活が苦しくなる。それが成長率をさらに押し下げる。政府は財政赤字の増大に悩む。経済社会が悪い悪循環にはまったようです。
なぜ高コスト社会になったのか。大きくいえば、米中が覇権交代期を迎え、安全保障政策の強化が必要になった。経済成長の結果である環境汚染・温暖化が進み、環境コストが膨張していく。人口構造の高齢化に伴う社会保障コストの増大もあります。
さらに政治がポピュリズムに入り、経済合理性を無視した政策が乱発され、コストを押し上げていきます。
費用・コストをかけたら、どの程度の効果が得られるかが不透明なまま、政策、対策が先行していく。費用・コストをかけることが政治であるかのような錯覚にも陥っている。膨大なデータを集積し、分析する人工知能(AI)の時代に入ってたのですから、世界を覆う高コスト構造の解明はできないものか。識者も学者も事細かな問題提起に終始しすぎています。
覇権争いに出口はあるのか
まず米中の覇権争いです。米国が世界の覇権を握る「1強時代」が終わり、中国が軍事的、地域的、経済的に勢力を拡張する時代に入りました。ライバルの国は安全保障政策を強化しなければならなくなり、国防・軍事費の増大が不可避となっていく。覇権争いに出口はあるのか、決着がつくのか分からない。
自衛隊が宇宙安保を強化するという記事を最近、見かけました。他国の人工衛星を攻撃できるキラー衛星が登場し、地上を守るだけでは間に合わなくなり、宇宙空間での自衛隊の対処能力を強化していくのだそうです。軍事予算は軍需産業を潤しても、経済成長に与える効果は民生中心の経済活動に比べて劣ります。それでも、安全保障のためといえば、効果は不透明なまま、予算はまかり通る。
次は環境対策コストです。国連で「気候行動サミット」が開かれ、「77か国が2050年の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」ことを申し合わせました。ドイツは石炭利用を38年にゼロにするほか、23年までに6兆円の温暖化対策費を投じるそうです。
温暖化対策は世界全体で推進しなければならないのに、最大のCO2排出国である中国、米国は動こうとしない。日本は原発に急ブレーキがかかり、石炭火力への依存度が高まっているので、前向きになれない。国連の気候変動に関するパネル(IPCC)は、「対策が不十分なら、2100年に平均海面水位は最大で1.1メートル上昇する。2300年には5.4メートルの恐れ」と、警鐘を鳴らしました。
温暖化で沿岸部は深刻な高潮被害
「温暖化で海洋が酸性化し、世界の漁獲量は減っていく」「海面の上昇で沿岸部の都市は、100年に一度しかなかったような高潮に見舞われる」。というのに、温暖化対策は遅遅として進まない。沿岸部は高い防潮堤が必要になり、その費用は津波対策のレベルではない。
「一国だけで取り組んでも効果が知れている」「費用も膨大」と、あきらめているのでしょうか。
割を食うのは次世代以降の人たちです。早く取り組めば、対策費は少なくですみ、放置しておけば、膨大な被害が発生する恐れがあることはっきりしています。対策の先送りによる費用の増大を、真剣に心配する人たちがいないのです。
人口の高齢化で先進国ほど、年金・医療などの社会保障コストが増えていきます。社会保障の仕組み、つまり高齢者を支える若者は減っていく。経済成長率は低下し、税収は減り、その一方で社会保障支出が増えていくので、財政赤字の膨張は止まらない。
環境問題でも、社会保障、財政赤字の問題でも、割を食うのは次世代以降の若者たちです。次世代への費用の先送りが政治家や有権者にとって、最大の政策になっているのは悲しいことです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年9月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。